身辺雑記 黒猫と少年たち…ほか 2024,4,17ブログ
(1)黒猫と3人の少年
月曜日の午後、東高根森林公園を出て丘の上にある長尾小に出た。学校が静かだ。校門前の掲示板に貼られた学校便りをみると、この日の午後は保護者会となっている。
「ああ、子どもたちは午前授業で給食を食べた後早帰りしたんだ」
そう思いながら、丘の上の緩やかな坂道を登って行った。
一番高くなったところに五所塚古墳群がある。権現台とも呼ばれていたようだ。実際の墳墓ではなく縄文時代にこの地に人が住み、その後古墳時代になって祭祀の目的で作られたらしい。
そこに3人の少年たちがいて黒猫を追いかけていた。いつも大きな桜の木の下でのんびりと日向ぼっこしている黒猫だ。
驚いた。黒猫が2匹いる! 1匹は道路に、もう1匹は少年たちのいる土手からサッと降りて来た。
「こんにちは! 君たちは4年生かな? 今日は、もう学校が終わったんだね」
3人の子どもたちの顔つきと様子を見て、そう呼びかける。
「ううん、5年生だよ」
「あっ、ごめん! 悪かったね」
3人は、ぼくの声かけを嫌がらずに笑顔で答えてくれた。
「ねえ、ここの黒猫って2匹いるんだね! 驚いたよ、野良猫でしょ」
「うん。そうだよ」
話したのはただそれだけのこと―。でも、何だか心がワクワクする。子どもと話すのは楽しい。
それから、妙楽寺に向かう坂道の途中にある小さな公園のベンチに座って本を読んだ。ここは見晴らしのよいところで遠くに霞んだビル群が見える。新宿、渋谷、二子玉川、武蔵小杉あたりの高いビルだろうか。
(2)手提げカバンを持つ小さな男の子
等々力から二子玉川まで歩く。最初に等々力不動に向かった。本当は渓谷沿いの道を歩きたかったけれど、崖崩れの危険があって通行止めとなりそれが今も続いている。残念。都内唯一の渓谷なのに!
渓谷を渡り日本庭園に出てしばらく本を読む。
それから住宅街を歩いた。野毛大塚古墳に向かう途中、小さな男の子と出会った。
手提げカバンを持って、一人トコトコ歩いている。
「君は、2年生かい?」
「うん。そうだよ」
彼は、ぼくのことを不審者とは見ないで答えてくれた。
「塾か習い事の帰りなの?」
「ううん、これから行くんだよ。英語とピアノなんだ」
「へえ、そうか。大変だなあ。おじさんね(笑)、びっくりしたんだよ。君の手提げの中にスケッチブックが入っているでしょ。絵の教室に行くのかと思った」
「これはね、ピアノで使うの」
「そうなんだ。楽譜でも貼るのかな…」
古墳のある公園の手前で少年と別れた。
おしゃべりは楽しかった。40年も教師をやってきたから、子どもを見かけるとすぐ話しかけたくなる。勿論、気をつけてはいるけれど…。
(3)散歩と読書
自宅で本を読んでいると集中が切れる。突然眠くなったりして…。神経痛をやわらげる薬を飲んでいて、“眠気が生じる場合があります”そんな注意書きがあって、これも“眠さ”の理由の一つのような気がする。
午後の2時過ぎ散歩に出る。リュックの中に、本と双眼鏡とスケッチブックの3つを入れて歩く。
教育の5月号が届いたので自然の中で読み進めた。
あっ、大切なことを言い忘れた。
雑誌が自宅に届いた瞬間その場で封を開き、真っ先に読んだのは福井将道さん執筆の『私の誌面批評』―。4月号の特集を丁寧に読んでくれて、福井さんの持つ豊かな教育観で包み込まれるような文章が綴られていた。すぐお礼のメールを送った。それから、2本の連載と教育情報を読んだ。
『毎日がチャレンジ』は米澤慎二君の文章。いいなと思った。続いて友人・宮﨑亮馬君の『「学校メガネ」をはずしてみたら?』を読む。研修主任として職場に本物の語りの場を作り出していく素敵な取り組みが書かれていた。2つの文章に感激。続いて片岡洋子さんの『教育情報』を読む。題名は『「中学生・高校生の生活と意識調査 2022年」をジェンダーで読む』―。なるほどな…と教えられる。刺激的だった。
さて自然の中で読んだのは、特集Ⅰ『子どもを語る言葉をとりもどす』―。論文全部を読む。どの文章も、教師と子どもとの間で、さらには保護者との柔らかな関係性をつくるために、語ること・聴くことの深い意味を読み解いている。
特集2は全部読んでいないが、友人・綿貫公平さんの論文『東京の中学校における評価・評定の30年』を読む。小学校教員であったぼくには欠けていた視点だ。中学生たちの学びへの意欲や傷つきやすい感情をどのように人間として守っていくか…そのことへの熱い思いが底流に流れている気がした。
※
最近読んだ小説は、町田その子さんの本3冊。『52ヘルツのクジラたち』(中公文庫)『うつくしが丘の不幸の家』(創元文芸文庫)『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮文庫)『52ヘルツ…』の映画は見ていないけど…。どれも、これまであまり取り上げてこられなかったような様々な人間模様が描かれ、リアルに立ち上がり、丁寧に細やかに、そして面白く描かれていて味わい深い。
自然の中で読み始めて、帰りの電車で読み、自宅に帰って来てさらに続きを読むといった感じ。