新しい年、初めての授業―。

 1限ゼミにまにあうために、5時に起床して6時20分、家を出る。

 都留は、降雪の予報。

 玄関を出て空を見上げる。

 辺りはまだ暗い。厚い雲がたちこめていた。


 立川から大月へ…。『スーパーあずさ1号』が走る。

 激しく揺れる電車。静かに目を閉じる。

「眠りすごさないようにしないとな…」

 

 大月駅で富士急河口湖線にのると、白いマスクを取り外しながら、女子学生がぼくに「おはようございます」と挨拶してくれた。 

「お早う。あなたはFさんですよね」とぼく。

 すると彼女が言った。

「先生、きのうは講義が無くて残念でした」

「うん、あの時間学生大会があったからね」

 こうした何気ない一言がうれしい。


 久しぶりにゼミ室の空気を吸う。

 荷物をおいて事務棟へ出勤印を押しに行き、教務によって卒業論文を受け取った。

「8部ですね。確認してください」「はい、確かに!」

 8人のメンバーの卒業論文が提出されていた。

 それは当然のことだから心配はしていなかったが、やはりほっとする。

「みんな頑張ったな。これで卒業できる!」

 うれしい気持ちでゼミ室に持ち帰る。


 ゼミ室に4年生がやってきた。「卒論、頑張ったね」と声をかけながら、まだ全員そろっていなかったけれど、熱い飲み物を用意してゼミを始めた。

 2人ばかり近況報告をしたとき、ドアが開いて、ローソクの火の灯るケーキが飛び出してきた。

 一斉に歌い出すみんな。

「♪ハッピバースディテゥーユー ~」

「ああ、ありがとう!ぼくの誕生日を祝ってくれたんだね」


 イチゴのたっぷりとのったケーキをみんなでいただく。

 1月8日がぼくの誕生日。きょうは1月15日。すっかり忘れていたのに!

 

 ゼミが終わった後で、「先生、これ…、誕生日のプレゼントです」

 Oさんが、かわいい袋を手にしながら言った。

 びっくりした。

 包装紙をあけてみると中には帽子が入っていた。

「わあ、ありがとう!素敵だなあ」

「先生、ほら、このあいだ新幹線の中で帽子を落としてしまったって言ったでしょ」

 

 帽子をかぶると、ゆったりとした大きさでぼくの頭にピッタリだ。

「先生が、いらしたときに先生の帽子のサイズを測っておいたんです」

「……!」


 午後から雪が激しく降り積もる一日。だが、新しい年のうれしい始まり。