佐伯一麦の『渡良瀬』(岩波書店)を読み終えた。
舞台は、茨城県の西部にある配電盤製造の工場。そこで働く拓とその家族、そして周囲の人々の物語が日常の暮らしと共に描かれる。
配電盤の内部やその仕組み、電気の流れ、配線のことなどよくわからないので、そうした記述に出あうと、理解するのに少し困難を伴うが、それでも書かれている内容とそこにうごめく人々の生き方と真実に心が動かされ読み進めていった。
『鉄塔家族』『還れぬ家』…、そして今回の『渡良瀬』等々。
これらは佐伯の書いたそれぞれ独立した小説だが、そこに登場する主人公は、常に佐伯の内部とつながりあう一人の人間の生き様として描かれている。
ぼく自身の生活は、日々あれこれと関心が移り、流され、揺れ動き、一つのことに集中することがない。
それでも、朝の始まりの時間と夜の就寝前に、机の前でこの本を開くと心が落ち着くから不思議だ。
佐伯の本の中に描かれる内容は、大きな事件が起きるとか、ドラマがあるとか、展開する物語の面白さがあるわけではない。しかし、文章を読んでいると、心が澄んできて静かに読み進めるうちに生きることが励まされる。ぼくの勝手な判断だが、これが文学の力なのではないか、と思ったりもする。
就寝前に少しずつ読み進めた本が終わってしまった。ちょっとさみしい。
夕食の惣菜を買うために午後駅前近くに出かけて、書店に寄った。
小説の棚をながめながら「さて…」と考えたが、自宅の机の周りに読まねばならぬ本がたくさん積み上げてあるのを思い出して購入は控えた。
昼過ぎ、高校サッカーの決勝戦を見ていた。石川と富山の代表チームの闘い。躍動するメンバーたちの動きが、それぞれのチームに流れがあって、うまく機能するときと、そうではないときと、あきらかに大きな違いがあって、本当にあたかも寄せ返す波みたいで、それをみているのが楽しかったし、不思議な感じがした。