立川駅7時5分、『あずさ』号が走り出した。

 低くたれこめた雲の下に多摩川の河川敷が見える。

 背の低い雑木たちが数本、体を寄せあい裸で震えている。

 天気予報は、夕方からかなり冷えるという。


 列車が大月駅に滑り込むと、河口湖行きの電車は反対ホームに入っていて、アナウンスが急がせた。


 都留の駅で、H君に会う。

 「お正月はどうでしたか」

 「はい、今年のお正月はゆったりと過ごしました」 

 「お祖父ちゃんの家でお餅つきをしましたか」「はい」

 こんな会話を交わしながら坂道を上がったところで別れた。

 ゼミ室を見上げると電気がついている。誰が来ているんだろう。


 入り口のドアをあけた。

 部屋のドアが自動的にあいて「先生、明けましたおめでとうございます!」とSさんが言った。

 ぼくは笑った。

 「本当に明けまして(開けまして)だね!」


 部屋はすでに暖かく幾人かが座っていて挨拶を交わした。みんなの顔が明るい。「卒論が仕上がって提出をすませたんだろう。よかったな」と思った。


 コートを脱いで、ほっとして辺りを見回したときだ。

 突然いま閉めたばかりのドアがあいて、キラキラと輝くローソクの火が飛び込んできた。

 IさんとMさんの手に丸くて赤いケーキがのっている。

 一斉にみんなが歌い出した。

 「♪ハッピバースディ・トゥーユー」

 

 びっくりした。まったく予想もしていなかった。ぼくの誕生日をゼミ生たちがみんなで祝ってくれたのだ。

 ひとつ遅い電車で来たのだが、その間、窓からぼくの来るのを偵察していて、坂道をのぼるぼくの姿を確認して、2人が別室に隠れていたのだ。

 「先生、35歳ですよね!」

 「そこまで若いとうれしいけど、いま54歳になったよ」


 ケーキを切っている間に簡単な印刷をしに行って戻る。

 「ごめんね、遅くなって。改めて新年おめでとう。さあ、ケーキをいただきましょう」

 するとOさんが言った。

 「先生、もう一つみんなからのプレゼントがあります」

 「えっ…!」

 きれいに包装された紙包みを開けると、中から黒いハンチングが出てきた。

 ぼくは感謝の言葉を伝えながらそれをかぶってみた。

 「先生、似合います!」

 「ありがとう。この冬の寒さをこれをかぶったら乗り越えられるね」


 うれしいハプニングの一日だった。


 実は、誕生日が来るたびに、もう教師10年目を迎えるU君からうれしい携帯メールが届く。近況と一年の決意も書かれていて清々しい。ぼくも励まされる。

 こんな誕生祝をしてもらって、今年も頑張っていかなくてはな…と思った。