暮れの31日、一人でぼんやり本を読んでいると玄関のチャイムが鳴った。

 「誰だろう」

 と思ってインターフォンを耳に当てると「速達です」と郵便配達員さんの声が聞こえた。

 いぶかしく思いながらドアを開けると

 「現金書留です」という。

 ぼくに現金を送ってくれる人なんて今時いるだろうか…と驚いた。


 裏の差出人欄の名前を見た時、ハッと思った。

 「ああ、Nさんだ。わざわざ本の代金を送ってくれたに違いない」


 開封するとやはりNさんからだった。

 『子どもの学力をつける ―国語・算数・理科・社会』(田所恭介さん編集の本で国語はぼくが担当している)の本が、絶版になるかもしれないので、希望する方はどうぞ…と紹介したとき、「この本を読んでみたい」と連絡をして下さった方だ。


 お手紙が添えられていた。

 その文章を読んでいたら、思わず「そうか、改めて大切な視点を教えられたな」と強く実感させられることがあった。

 その文章が素敵で、今回うれしくてちょっと一部だけ紹介させていただく。


≪…略。いきなり本の話をさせていただきますが、山﨑さんが書かれていた教師が「全力で聴く」の箇所が好きです。

 授業をつくり、支える上でも、教室の場づくりをする上でも、教育の教師の基本姿勢が書かれてあって、私はからだが何て言うんだろう、安心したようになりました。

 …略。

 私は、「教師が子どもの声を全力で聴く」という項目が明示されている授業をつくるための本は、初めて見ました。

 きっとあの本の丁寧さは、山﨑さんの教師のからだから綴られ、創造され、編まれたものなんだろうな…と、すごく感動しました。

 どこを読んでも、山﨑さんが深くまっすぐに子どもと出会おうとドキドキしながら、相手の前に立っている姿が浮かんできました。

 私は、山﨑さんの教室を訪れたことはないのだけれど、なんだかリアリティを感じたんです。

 …略。≫


 こんなふうに読んでくださる方がいらっしゃることがすごくうれしかった。

 ぼく自身、国語の授業づくりについて、自らが悩み、問い、創り出してきた歩みを心をこめて書いたつもりだったのだが、それを深く深く読み取って下さっている方がいらっしゃることに心が震えた。

 そうなんだな。

 「聴く」…ということは、教室にいる子どもの尊厳を認めるということ。

 教師というわたしの思いや人生とは違った、他の誰かによってとってかわることのできない、かけがえのない存在としてその子を見つめるということ。


 2013年の暮れの思わぬプレゼントをいただいたような気持ちがして、心が弾んだことを、今忘れずに記しておきたい。