早の7時半、家を出て袋井市に住む母のところへ向かう。

 「座敷の仏壇が奥の納戸側に傾いている。14日か15日、どちらか都合のつく日に仕事をしたい」

 兄から連絡があった。A県で高校の校長をしている弟の都合を聞いて14日に決めた。


 10時半、生家に着く。母は居間の炬燵のそばで横になっていた。

 問題の仏壇を見ると、驚くほど反対側に傾いている。納戸には雨漏りがあったのだろう。床を張り替えねばならないが、とにかく応急措置をすることにした。


 納戸から古い箪笥2竿、茶箱2箱、他様々な箱類その他を取り出す。母や亡くなった祖母の衣類、短歌関係の書類・書物、明治期の古銭、それからぼくらの小中学校時代の私物、それから布団類等あれこれが出て来る。


 「不必要なものは処分して、箪笥関係は裏の蔵に入れておこう」

 西側廊下の雨戸を開けて、そこから手渡しされる荷物や箪笥を運び出す。

 そのときぼくは、投げ出された箱類の片隅に、小さな懐かしい箱を見つけた。

 「これ、ぼくの顕微鏡だ!」

 

 それは、中学生になったばかりの頃、ほしくてほしくてたまらなくて、ついに手に入れた顕微鏡だ。当時の値段で1500円くらいだったか。

 ぼくは、この顕微鏡のことを少年時代の思い出として詩に書き『教室詩集』に掲載している。


 「ぼく、これ思い出の品だから持っていくよ」

 顕微鏡は、もう使えないけれど、当時の姿そのままだ。

 今日の仕事はとても疲れたけれど、懐かしくてうれしい宝物との出会いがあった。帰宅、午後の8時。