雑誌『教育』の全国編集会議二日目。地下鉄市ヶ谷駅5番出口を出る。しばらく右手に濠を見て歩くと、2人の若いランナーが向こうから並んで走ってくる。走り方がしなやかで力強い。

 「法政大学の駅伝チームのメンバーかな…」

 そんなことを思いながら橋を渡る。生茂る緑の中に、真夏の暑さに負けず咲き続けた夾竹桃の花が、まだわずかに残っていたが、鮮やかなピンクはさすがに色褪せていた。


 桜並木の土手を歩く。左手下に堀が見える。眼下を電車が走り抜ける。総武線だ。右手側は車道。若者が何かを語りながら並んで歩いていく。

 「学生たちだな…。休日のクラブ活動か…」


 会議は午前9時から始まって、午後1時終了。雑誌『教育』の編集長は、これから久冨先生と佐藤博さんになる。半期分の企画を立てる。


 終わって、私学会館により何人かで昼食をとる。香川の中尾さんや京都の吉益さんたちと…。滋賀の石垣さんはここで帰る。明日からまた学校だ。吉益さんは、今年は教師生活を終えて初めての夏。これまで東京で出会うときは、宿泊した翌日、昼までの討議のあと、すぐ新幹線に乗って帰っていった。


 「ぼくが、現役のときは、とても二日続きで討議に参加できなかった。心と体の準備が必要でしたから。夏休みも貴重な日々でした。吉益さんも、この夏は少しだけ時間がゆっくり流れ始めましたか」

 ぼくがそうたずねると、彼は言った。

 「今日は、これから教育書のある古書店によっていきます」

 言葉が少しうるおいに満ちて輝いていたような気がした。

 現役の教師たちに、こうしたしなやかな時間を保障してあげたいと思った。