22日のこと。

 札幌で朝を迎えた。ホテルの窓から外を見上げると、うすいベールのような雲の向こうに青い空が広がっている。すこしまばゆい感じがした。うれしくなる。


 朝食はバイキング。荷物をカウンターにあずけて、ぼくは例の雪靴をはいて街に出た。

 地上を歩く。パウダー状の雪がこんもりと歩道の両脇に積もっている。

 電話ボックス、建物表示の石柱、植木や街路樹、どこもかしこも4・50センチの雪ぼうし。

 ぼくはときどき歩道に残された雪の山を上り下りする。

 

 しばらく歩くと道庁が見えた。赤いレンガの建物も雪をいっぱいに抱いている。

 門に足を踏み入れる。

 一面、白の雪の広場。時刻は11時。

 カメラを向けて写真を撮る人たちが何人かいた。

 ぼくは、右や左に移動して建物を遠くからみる。

 「やっぱりスケッチブックを持ってくれば良かった…」


 大通り公園を通り抜けて、狸小路を右に左に歩いてみる。まだほとんどの店が開店前で、アーケードの下は薄暗い。

 しばらく歩いて、丸善&ジュンク堂を見つけた。

 「しめた。ここでスケッチブックとシャープペンシルを買える」

 小さなスケッチブックは、315円。シャープはちょっと書きやすいのを選んで、こちらは、1000円。


 店内をあちこち見回った後、再び道庁を目指した。

 建物の正面少し右手に立ち、左手に手袋をしたままスケッチを始める。

 全体のバランスをとるのが難しい。20分くらいですまそうと思ったけれど、いつのまにか40分近く、そこに佇んでいた。

 「いけない!結構時間をかけてしまった」 

 

 雪の歩道を、今度は少し速足で歩く。でも…と思った。このまま帰るのはもったいない。

 ぼくは、ちょっと悪戯心で手つかずの雪山に「エイッ」と手形をつけた。

 「これでよし…」


 ホテルに戻り、雪靴をいつもの靴に履き替えて、空港に向かった。

 驚いた。この電車に乗らなかったら、3時半発の羽田便に乗れなかったじゃないか。あぶない、あぶない。


 空港では30分も余裕がなかった。あわてて搭乗手続きをすまし、自宅とゼミ室へのお土産を買って飛行機に乗る。

 この行き帰りに、ハヤカワ文庫『開錠師』(スティーブ・ハミルトン著)を読む。