4年生のゼミの時間は、卒論の仕上げに挑戦した冬休みの日々の交流。
ところが、1限の授業が始まっても、二人のKさんの姿がみえない。
「あれ…」と思っていたら、少し遅れてドアの向こうで何か音がする。
「ジャーン!」
二人の大きな声と一緒にドアが開いた。大きなケーキを胸の前に抱えている。そのケーキの上で赤い火が躍っている。
「先生、誕生日おめでとうございます!」
みんなが一斉にいって歌ってくれた。
「ありがとう」とぼく。
それにしても赤いイチゴの乗った丸いケーキの上は、ローソクがいっぱいだ。
「いったい何本あるんだい?」
びっくりしてたずねた。するとKさんが言った。
「先生の歳がわからないから(うん、いいねえ)、ゼミ生10人と先生を入れた11人分のローソクを立てました」
「そうなんだ。11本のローソク。ぼくは110歳かと思ったよ。ありがとう。うれしいね」
ローソクの火をひと吹きで消した。
みんなで写真を撮ったりした後、ケーキを食べながら、お話をした。
そのとき、Sさんが手提げの紙袋を手にして立ち上がる。
「これ、みんなからです!」
「…!」
リボンをそっと外すと、中から出てきたのは紺色のフード付きトレーナーと黄色の縞模様のある腹巻。
しかも、トレーナーにはフェルトで作った特別のアップリケがしてある。
文字と絵柄がいっぱい!
≪や・ま・ざ・き・た・か・お FAMILY≫が二段に。
それから、文字の下に
≪ぼくの顔とゼミ生全員を動物にした絵≫が。
それは、丁寧に一人ずつ切り取られ、個性的な表情が描かれている!
作りあげたのはSさんだという。
「Sさん、そしてみんなありがとう。でもSさん、卒論をしながらこれを準備したの」「いいえ、卒論を終えてからやりました」
ぼくは、みんなの見ている前でその手作りのトレーナーを着た。
「可愛い!」「似合います!」とみんな笑いながら言った。
「よし、ぼくはゼミ室でこれを着るぞ。食堂もこれで行ってみようかな…」
この勇気ある挑戦を果たしていつするか!
素敵なトレーナーは一旦、自宅に持ち帰って家族に見せた。
夜遅く帰ってきた娘が、「誕生祝にもらったトレーナーを見せて」と言った。
見せてあげると「わぁ!これは凄い」と声を上げた。
どうやら彼女のフェースブックに載せたみたい。静岡に住む娘の方まで伝わった。
ありがとう。忘れられない一日になりました。