新しい年、大学もまた授業が始まる。

 都留の4年生は、卒論の提出日が確か今日から。


 みんな、もう書き終えただろう。今ごろ祝杯をあげているか。

 これほど集中して考え、文章に表すことへ取り組んだことは、いまだかつてなかったことだろう。

 やりとげているなら自分をほめてあげたい。

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 今日は一日、朝から大学での授業の準備。

 お腹がすかない。他の仕事も含めて2時半頃まで集中した。

 3時頃になって台所をのぞく。

 「夕食までは時間がある。少し食べておこう」

 餅をみつけた。雑煮をつくることにした。

 冷蔵庫から適当に野菜をとりだす。人参、大根、牛蒡、それから名前のわからない緑野菜。

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 冬休みに読んだ本の中で石田衣良の『チッチと子』が心に残る。

 妻を交通事故で亡くした青田耕平39歳は、10年前に文学の新人賞をもらった作家である。彼には10歳になる一人の子どもがいる。それが『カケル』。

 心に残るような味わいのある文章を書く作家なのだが10年間で14冊の本を出版し、どれも初版ばかりで重版は一度もない。これで二人の生活を支えていくのは結構大変なのだ。

 いつかブレイクする作家と言われているけれど、それがいつなのか。


 ひとりの子どもの親として生きつつ、作家として悩み揺れながら、そしてまたスランプのようなものに陥りつつ、文章を書き続ける日々の姿が率直に描かれている。なんだか街に出て、近くのスーパーや本屋さんで買い物をしているとそこで出会うようなありふれた等身大の人物のような感じがする。

 カケル少年と作家である父親の、かわされる会話は、何気なく読むと、よい父親と「よい子」の関わり合いのようだが、妻を失った耕平と、母を失ったカケルの二人の悲しみの感情が、深いところにある哀しみを包み込み、わざとそれに触れないようにして生きているような感じもする。

 石田衣良の作品は数えるほどしか読んでいないが、ぼくはこの本はいいなと思った。