いつ都留の町に雪が降ったのだろう。1号館の前の庭や図書館の裏庭などに、降り積もった白い雪のあとが残っていた。少し凍ってかたくなっている。あぶない、あぶない、すべったらいけない。慎重に歩く。

 大学の周りの山々も、単色のいつもの姿とは違って、白黒の墨絵のような風景を見せている。

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 この日は、珍しく12時に家を出て、午後2時、大学のある都留の駅に着いた。

 授業のレジメを印刷。それから、二つのゼミで扱う本を読み始める。

 4時半、生活指導論の授業。405の教室は学生たちであふれていた。ほぼ全員の出席。何だか見ているだけで壮観だ。

 ぼくが語り出すと、シンと静かになって、うれしい気持ちになる。

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 授業の始まりに新聞の投書欄の声を一つ紹介した。

 題名は『初詣 小1の孫の悲しい願い』。

 投書された方は仙台の69歳の主婦西さん。内容はおよそ次のとおり。

 ≪元旦の午後、娘夫婦が孫を連れて我が家に来た。早朝、父親と近くの神社に初詣に行ってきたとのこと。西さんが尋ねる。

 「何をお願いしてきたの」

 すると小1の孫が、消え入るような声で言ったという。

 「今年も生きていられますようにって」と。

 東日本大震災でたくさんの人たちが亡くなった。自分の年齢に近い小学生たちもいる。孫はそのことをテレビのニュースなどを通して知っている。身近に死を意識し始めたのでしょうか。

 7歳の子どもが「今年も生きていられますように」とお祈りするのは、とても悲しいことです。…≫

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 ぼくは学生たちに言った。

 「屈託のない子どもたちの笑顔の影に、自己の生を問うような思いが隠されていることを、ぼくらは知っておきたいです。子どもは、大人たちが想像する以上に、世の中の、時代の空気を読み取って、その生の中に鋭く取り込みながら生きていくのでしょうね。辛さ。悲しみ。痛み。不安…。言葉にはならない様々な感情をね。そうした隠された感情や思いを、ていねに支えられるぼくらでありたい…」

 と。