11日は、2012年の最初の授業日。
ゼミ室に行くとHさんがまっていた。
「卒論出したかい」「ええ、書きました!」
「よかった!ゼミのみんなが提出できたよね」
ぼくは、ほっとして言った。
卒業論文というのは、本当に大変な挑戦。テーマを決めて、考えて、考えて、書き始め、さらに調べて、関係する方に聞き取りをして、さらに考えて、書く、書く、書く…。ひたすら書いて、あと少し、あと少し…と進めて、ついに最後の一文字を書き入れる。
「やったー。ついに書きおえたぞ~!」
一人で歓声をあげて祝杯だ。大学時代のやり遂げた大切な学びへの集中。
幾人かは、さらに提出後、まだ最後の力をふりしぼって書く仲間もいるけれど、とにかく提出までよく頑張ったと思う。
ぼくは、これから、それを一人ひとり読むことになる。
※
「先生、今日の夜は新年会です。出られますか」
「えっ、今日やるって言ってたっけ」「はい」「わあ、忘れていたよ。そうか、そうだったね」
授業を終えた後の6時半過ぎ、4年生みんなで居酒屋に繰り出した。Hさんのアルバイト先だ。
鍋を囲んで卒論の完成を祝いながら新年会だ。
店の入り口で、YさんとOさんの二人が忘れ物をとりに自宅に帰る。
「ああ、そうなんだ」とぼくは本当にそう思って二人を見送っていた。
※
料理が並び、鍋に火が入ってぐつぐつ言い出したのに二人が帰ってこない。すこし心配になる。みんな乾杯をお預けしていた。
やっと二人の声がして「卒論完成おめでとう!」と言って乾杯した。
そのあとびっくりすることがあった。
幾人かが席をたちしばらくいなくなったので、どうしたのかなと思っていたら
部屋の入口からローソクを立てたお誕生日のケーキが入ってくる。
みんなが歌いだした。笑顔いっぱいで!
「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♪」
その瞬間、やられた!と思った。ぼくの誕生日をみんなでお祝いしてくれたのだ。
※
ケーキはイチゴが山盛り。チョコレートケーキ。
「先生、ローソクの火を消してください!」
何本立っていたかな。6本かな。写真をみんなでとったあとぼくは思いっきり息を吹きかけるとローソクの火が一度にぱっと消えた。
「先生、いいことありますよ。願いことがかないます」
「いくつになりましたか」
「28歳かな!」
ぼくは昨年あたりからもう歳を数えないことにしているのだ。
Gさんがケーキを上手に切り分けてみんなで食べた。おいしかった。
後から、聞いてみたら、忘れ物を取りに行ったというのは大嘘。遠くのケーキ屋さんまで二人は買い物に行っていたのだ。すっかりぼくは騙されていた。
新しい年の始まりに、幸せをいっぱいいただいた。ありがとう。