少年の日に   年賀状


郵便屋さんは 冬の日のあたたかな午後

風に乗ってやってくる

バイクの音を立てて 決まった時間に

ぼくは そのときが近づくと 遊びも勉強もなんだか手につかない


耳をそばだてる

いま、田の道を曲がったよ

今度は、急な坂道だ

もう、ケンちゃんの家だ

さあ、僕のうちにやってくる

もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ…


竹藪を越えて石垣に沿い

黒塀の向こうに赤いバイクが走り抜ける

あたりを圧するエンジンの音

白いヘルメット 紺色の服

バイクにまたがった郵便屋さん

ぼくの庭でUターン

片足をつけたまま黒い鞄を開く

中からずしりと重いかたまり

「はい、年賀状ですよ」


ぼくは一枚一枚そっとめくっていく

生まれて初めて出した大切なひとの返事を待って

昨日も、一昨日も、一昨昨日も待っていた

あの手紙

きょうこそはと思う 

来る… 来ない… 来る… 来ない

心の中に小さな嵐が生まれて 

そんなことをおくびにも出さず

ぼくは年賀状をめくっていく


中学一年の冬の日のできごと