大みそかの夜


大みそかの静かな夜

一人の若者がぼくの家にやってきた

ギターを抱えて


ちゃぶ台の前にすわり

「まだ習いたてだけれど…」

そう言って

『禁じられて遊び』を弾きだした

指先には機械油の黒いしみをつけたまま


ぼくは若者の前に熱い甘酒をおく

みかん5つとお菓子をお盆に乗せて

ギターが鳴る  

止まりかけのオルゴールのように


テレビの前の炬燵の中に

ぼくと弟と祖母が体を入れて

母はまだ台所で洗い物

青年が向きを変えた

「炬燵に入んなよ。一緒にテレビを見よう」

歌が始まる


外は青い月だ

あたりは銀の光に満ちて 影絵のようだ

木々の間から何かが走り抜けた

笑ったり、歌ったり、踊ったり、ひそひそとつぶやきながら

それは 時の小人たち

一年の仕事を終えて名残を惜しみながら帰っていく


家の中では あれからずっと華やかな歌が聞こえている

ぼくと弟と祖母ちゃんと母と若者のおしゃべり


テレビの歌が終わるとき

若者はギターを背に夜道を歩く

山道をのぼり藁ぶきの家に帰っていく

銀の光の降り注ぐ大みそかの夜だった