雑誌『教育』の編集会議が午後4時から神楽坂の教科研事務所であった。
3時まで授業の感想レポートを読み、出席を確認し、通信を作る。仕事をやり終えないまま、時間になったので飛び出した。
冷たい風が顔にビュンと吹き付ける。ここ数日、グンと冷えてきた。
※
そういえば大学の図書館前の野草植物園の小さな池が昨日の朝は白く氷っていた。子どもみたいにちょっと靴で厚さを確かめてみた。周りの木々はみな葉落とし、裸の枝を震わせていた。
「寒いね」
と声を掛けたけれど、木々は何も言わない。少し近づいてみた。
枝たちは震えてなんかいなかった。外気と触れ合う部分が、ほのかにあたたかい。何か命が脈打っているようだ。生きているのだ。その姿を見て少し背筋を伸ばした。
※
電車に乗って本を読もうとして忘れ物に気づいた。メガネを忘れた。信じられないミス。取り出した本をしまってあきらめ、目を閉じる。
「今日の会議は資料を読み続けるわけではない。何とかなるだろう」
※
会議を終えて、長い間編集の実務を担当してくださったTさんへのお礼の会を神楽坂の飲み屋さんで持った。9時ころ終了。九段下で乗り換えて半蔵門線で帰る。
ふたたび本を開いた。ところがメガネがないから集中は長くはつづかない。それで、目を閉じた。 いつのまにか眠っていた。
目を開けると窓の外に黒い塊が飛んでいく。
「ああ、まだ地下を走っている。そろそろ二子玉川あたりかな」
ところが驚いた。電車がすれ違って行った。
「しまった。乗り過ごした!」
わずか数分間、目を閉じただけだと思ったのに15分近く眠っていた。
乗り越したのは久しぶりのこと。T駅で下車し、改札口へはいかないで上り線のホームに降りる。誰も見ている人なんていないのにちょっとこそばゆい。