旅日記

 22日午後、新横浜から新幹線『ひかり』に乗る。名古屋までまっしぐら。高谷清著『重い障害を生きるということ』(岩波新書)を読みふける。ふと気づくと大井川を越え掛川駅を通過し、故郷の山々が見えた。

 名古屋からは各駅停車。岐阜羽島を越えると電車は鈴鹿山脈と伊吹山地の間を抜けていく。窓から風景を見ていたぼくは思わずつぶやいた。

「雪を抱く山だ!すごいな」

 それは伊吹山だった。地図を開いて確認する。1377メートル。日本海からの雪を抱く雲がここまでやってきて雪を降らしたのだろう。伊吹山地は琵琶湖の北東側に位置し、湖をそっと抱くように北から南へと屏風のようにそびえている。その一番南の端に伊吹山がある。それを少し南に下れば関が原だ。

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 米原駅で新幹線を下り普通列車に乗り換える。辺りはすっかり暗くなり西の空だけが、まだわずかに赤色を残していた。近江八幡駅下車。ビジネスホテルのテレビを付けると地方局の番組が『伊吹山に新雪』というニュースを報道していた。

「やったね。ぼくは新雪を見た!」

なんだか得意な気分…。

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7時過ぎ、石垣さんが車で迎えに来てくれて福井さんと若いAさんと4人で飲んだ。楽しいひと時だった。思わぬ発見もあって驚くことがいっぱいあった。これは秘密。

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翌日の帰宅はちょっと失敗。

「帰りの電車の時刻は大丈夫ですか」

石垣さんに聞かれて「大丈夫!」と気軽にこたえたのに米原に早く行ったのが失敗。ここは何にもなかった。

 夜の新幹線に乗るから夕食をどこかでとっておこうと思ったのだが、東の出口、西の出口、どちらにも何もない。店一軒ないといっていい。予想はしていたけれど食事の場所くらいあるかとおもったら本当に何にもない! どうりでぼくが「途中下車します」と言ったら駅員さんが怪訝な顔をしていたはずだ。どこにもいくところなんてないんだから…。

 仕方がないので駅に付属していた一軒の小さなカレーショップに寄った。うどん、そば、カレーの看板が並んでいる。

「あのう、席はないのですか」

「ええ、ありません!」

 言葉もない。これ以上何か話すと愚痴になる。黙ってカレーを注文した。ぼくが食べていると客が二人。一人は何か顔見知りの方で、もう一人は紳士。彼はうどんを食べてどこかへ出かけていった。

 ここは寒い。新幹線の待合室に入って30分ほど待つ。

 『ひかり』号の乗客は多かった。空席がない。名古屋に止まった後は小田原、新横浜しか止まらない。ビールは飲まないで小田原駅からずっと眠らないように眼を開けていた。