授業と学びの質を問う

 授業の良し悪しを何によって見ていくか。様々な視点が考えられるだろう。そうした中で、ぼくはいくつかの点を大切にしたいと思っている。その一つを、学校教育基礎研究の授業を使って学生たちに紹介した。教材は1年生の国語『大きなかぶ』―を使って。

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 まずは一人ひとりの心が動きだすような、教材と子ども一人ひとりとの豊かな出会いを創り出すこと。これを演出する教師の工夫が必要だが…。このとき、子どもは一人ひとり、それぞれの特有で個性的な人生の物語を背負って今目の前にいることを大切にしたい。

 それから、教室の子どもたちの多様な読みとつながりをつくりながら、子どもの心と体を揺り動かすような学びの活動をいれ授業を展開する。子ども期の逸脱や楽しい寄り道などもしなやかに学びの世界には取り入れたい。

 このとき、授業が楽しく、活動的で、勿論静かに熟考するときもあっていい…、そして一人ひとりの存在が受け止められ表現や表出が許される。そうした学びを創りだしていく。

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 今回とりあげた1年生の国語の物語『大きなかぶ』であれば『言葉と内容の世界』がこれまでとは違った質を伴って子どもたちの言語世界や内面を広げていくこと。他者の言葉を受け止め新たな自己を立ち上がっていくこと…。この発見と驚きを子ども自身が体験すること。

 そして、物語を学ぶことを通してそれまで気づかなかった深い世界と出会っていく。これが学びのなかで生まれる必要がある。

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 このことを学生たちと具体的授業を通しながら次のようにまとめた。

 物語との初めの出会いの頃の学級の状態を『A』とする。それが、教室の仲間たちと楽しく豊かな学びを通しながら『新たな質を得たA´』となること。そうした質的発展のある授業ができたとき、それは一つの優れた授業といえるのではないか。

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 A..さんは授業から学んだことを次のように書いている。

『AからA´へと世界を豊かに広げる…、ということが本物の学びとお話の中にあったが、まさにその通りだと思った。

 子どもの発言を授業に取り入れることで、授業内容に子どもの世界観が付加され、世界観が広がる。また、授業の中で子どもの発言を大切にすることで、それぞれの子どもの、それぞれの世界観につながりができて、さらに世界観が広がる。クラスとしての大きな子どもたちの世界観に、それぞれの子どもたちの輝きがあるからクラスの子ども皆が輝ける。

 山崎先生の子どもの生きる姿のとらえ方、そして、子どもと創る学びの世界のあり方からは、子どもたち全員が輝ける、素晴らしい連鎖がある、ということを学ぶことができた。学問を学問としておわらせることなく、子どもたちの輝きの場としてとらえることの素晴らしさを知った』

 こんな学び方をしてくれるとうれしい。

 S..さんは感想文に次のような言葉を記していた。

『ただこうした授業のやり方があると思うだけでなく、私たちは“学び”についての学びをしているんだという認識を改めて感じました』と。この捉え方もうれしい。