小さな赤い木の実

 水曜日、ゼミ室で一仕事終えて授業まで少し時間がある。秋の楽山に登ることにした。色づいた桜の葉がもう半分ほど落ち葉になって山道に散っている。歩くたびにカサコソと音がする。夏の楽山はセミの鳴き声であふれていた。それからわずか二月もたたぬというのに、足元から虫の鳴き声がする。

 突然いたずら心が起きて、コオロギの姿をみつけてやろうと落ち葉をかき分けた。ところが一匹も見つからない。

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 それから少し登ると町を見下ろす小さな公園に出る。もみじはまだ緑の葉が主体で、小さな一塊の枝だけがくすんだ赤に紅葉していた。大学から都留の町の方へと視線を移したとき「あっ」と息を飲んだ。

鮮やかな赤色が目に飛び込んできた。それは小さな赤い実の固まりだった。実を1つ、葉を1枚とってゼミ室に持ち帰った。植物図鑑で名前を調べる。どうやら『ガマズミ』の一種のようだ。札幌でであった『ナナカマド』よりずっと背丈は低い。子ども時代は名前など無関心によく見ていた赤い実。

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 その日は生活指導論の授業をした後、幾人かの先生たちと食事をして大学会館に泊まった。翌日は授業がいっぱい。5限は佐藤隆先生と二人で授業を進める。この日は、ぼくが授業。

「飲みにいきませんか」

と佐藤先生に誘われて先生のいきつけの店にいく。

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 ゼミ室をかたづけて暗闇となった大学の坂道を歩いていたら携帯の着信に気づいた。

「卒業生のMさんからだ!」

 折り返しの電話をするとMさんが出た。

「先生、T県の教員採用試験に合格しました!」

「そうか。よかったね。心配していたんだ。どうしたかなって。今年の試験にもう一度挑戦するって言っていたからずっと気にしていたの」

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 8時までお店で飲んで帰る。佐藤ゼミのKさんが車で先生とぼくを大月まで送ってくれた。そのKさんが言った。

「卒論で先生の実践を取り上げさせていただいています。いろいろ教えてください」と。「いいよ。ぼくにできることなら」と答える。

「先生のブログも読んでいます」

 びっくりした。ぼくは誰が読んでいるのかまったくわからない。それでもこんな身近なところで読んでくれていると思うと、きょうもまた少しだけブログに向かおうかなと思う。