本当にやってきた!
「論文の参考にしたいので先生の田舎へ行きたいです」
「…!」
母の様子を見にいった翌日、Aさんがぼくの田舎に本当にやってきた。
『子どもの心性』とか『子どもの心』、『大切にしたい子ども期』について、ぼくは、よく講義や文章で触れている。ぼくの感性の土台ともなった『子ども時代の風景』を少しでも見てみたい、そう言ってAさんはやってきたのだ。
携帯の電波が入りにくい山の中の家だから、電話をもらう時間を決めておいた。約束の1時になって、庭から道に出ると携帯が鳴る。
道を一本間違えたらしい。もう一度確認して村の入り口の高速道路まで歩き車を待った。小さな車が向こうから走ってくる。
「やあ、よく来たね。ここまで!」
※
家の前後は山が迫っていて、雑草や荒れた木々が茂っている。
「ぼくの子どもの頃の風景とはまるで違うんだよ。家の前まで田んぼがあったの。でももう山崩れの土砂でみんな埋め立てられてしまったね」
Aさんが言った。
「先生、本当に前も後ろも山ですね。ここで『星の子団』なんか作って遊んだんですか」
「そうだね。前の山も後ろの山も、どれもぼくらの遊び場だった」
Aさんは、それから1・2時間お話をして帰っていった。帰りの車に乗せてもらい袋井の駅まで送ってもらった。