田舎の川で

 十数年ぶりに故郷の家に泊まった。座敷に布団を敷いて、寝転びながら小説を読み始めた。

 仏壇の上の壁に曽祖父や祖父、祖母、父の写真が飾ってある。いつのまにか眠っていて眼が覚めると朝の5時半だった。7時に起床して少し散歩した。

 子ども時代の風景は耕地整理と減反、東名高速道路の開通などによって、すっかり姿を変えてしまった。農業用水路まで出て歩き始める。

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 小魚が勢いよく泳いでいる。水がきれいになったのだろう。川にそって下ると、チャボンと土くれが水に落ちる音がした。

「何だろう…」

 よく見るとそれは両手のひらをあわせたくらいの大きさのカメだった。

「へえ、カメがいるんだ」

 ぼくが子どもだったら大騒ぎして捕まえて家に持ち帰っただろう。

生き物を捕まえた興奮で胸がドキドキさせながら。

 家の裏庭に弟と池をほったことを思い出した。川でとってきた魚たちをそこに入れた。カメは数日してどこかに行ってしまったっけ。

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 我が家を出た竹やぶの前で、ふと小さな石ころを拾って向こう側の山に向かって投げた。石ころは手入れのしていない山の緑の中に吸い込まれて音を立てた。

 子ども時代の石投げは、6年生頃になってやっと向こう側に届いた。それまでは田んぼにボチャンと落ちたりして母に叱られた。投げるだけでなく丸太のバットで石ころを打った。

「カーン」といい音がして石ころが山の中に飛んでいく。それが、ぼくのバッティング練習だった。