都留からのお客様

 11時にポケットの携帯が鳴る。ぼくは「暑い、暑い」と言いながら朝の9時からマンションの地域防災訓練に出ていた。

「いま、どこ?」

「T病院という看板が見えます」

「じゃあ、246号を多摩川に向かって走って」

 大学院に所属しているGさんとMさんの二人が今日はぼくの家に来る。何をしに…?

猫のライラに会うため! 

いや、そうではなくて学級通信を取りに来る日だ。

 Gさんの修士論文に役立つというので了解した。しかし、量は半端ではない。

「先生の自宅までとりに行きます」

 それで二人が車でやってきた。遠い旅路。ぼくはお陰で少しだけ早く訓練から失礼できたけど。

              ※

 Gさんが「読んでみたい」と言った学級通信は、ぼくが初めて教師になった頃のものや、様々な時間の流れの中で関心のある年のもの。書斎の本棚の下から、あるいは玄関の作り付けの本棚から、なつかしい学級通信を取り出した。ぼくは、霜村さんのように製本してない。自分用の一冊だけが残してある。厚表紙と綴じ紐で止めている。

 こんなものだけれど、わざわざ読んでくれるというのがうれしい。でも、誰にも渡してなかったから、なんだか恥ずかしいような気持ちもする。

              ※

 二人が部屋に入ると、猫のライラがMさんの手提げバックに顔をすりつけた。「これは違う匂いがするぞ。ぼくの匂いをつけるのだ」。そんな感じ。

 暑い中だけど町に繰り出してお昼を食べて、ちょっと多摩川を渡り、再び戻って、二人は帰っていった。帰りは高速を通らないという。無事着いたかな。楽しい一日だった。