東京ドーム

 20番ゲートの前で友人のU君を待っていた。腰を下ろして小説を読んでいると、隣にさわやかな白い服を来た青年が座る。

横から声がした。

「先生、お久しぶりです」

それは、ジャイアンツのユニフォームを着たU君だった。

「東京ドームのチケットが手に入りましたから来ませんか」

 6月4日のこの日を指定して前から誘われていた。

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 試合は『楽天対巨人』戦。U君は大の巨人ファンだ。ぼくは、U君に会いたくて、また野球と言う劇場空間にこの身をおくことで日常を離れられる…、それが楽しみで喜んでやってきた。

 今日は、一塁側外野席横の指定席。巨人ファンで埋まっている。

ぼくの目の前に、巨人のユニフォームを来た若者たちが座っている。背中に『さかもと』『もとき』と書いてある。

 ぼくが『もとき』を指差して笑いながら小さな声で言った。

「見て、U君。彼は昔からのファンだね」

 するとU君がクルリと背を向けた。彼の背には『しみず』と名前が入っている。

「君のあこがれは『清水』だったんだ」「はい」

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 巨人の攻撃になると回りはワッと立ち上がってジャンプをしながら歌いだす。得点が入るとオレンジのタオルが舞う。この一体感を楽しんでいるのだろう。

 ぼくとU君はおしゃべりも楽しんだ。職場のこと仕事のこと、赤ちゃんのこと…。U君の活躍ぶりを聞いてうれしくなった。

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 少年時代、ぼくは中日ファンでラジオの野球中継を夢中で聞いていた。画像のない音の世界。ときどきアナウンサーの絶叫と共に雑音が入り混じって、声が聞こえなくなる。ラジオの前で、遠い空を伝わってくる電波を待ち続ける。山の中の古い家の小さな机に向かい、ラジオを祈るようにして聴いている少年の姿が見える。