学生たちの歌声

 小学生の歌う声を長い間聞き続けたぼくにとって、学生たちの歌う声は、子どもたちとのそれとは、また違った意味で深く心に響いてきた。

 『大きな歌』や『線路は続くよどこまでも』の歌詞を黒板にはってアコーディオンを弾いた。最初は、小さく低く地をはうように、声が生まれる。しかし、それはやがて教室の空気を揺るがすように辺りにこだましはじめた。公然と顔を上げて歌う学生たちの赤い頬。瞳が輝いている。歌うという意思をもった分厚い声の重なり…。

自己の生みだす声と他者の声が、からみあい渦を巻き、教室全体を揺り動かし始めた。歌は生きている!いいなあと思った。

わずかな時間だったけれど、独り占めするのが申し訳ないような感動―。

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 学生たちの感想が寄せられた。

「大学に入ってひさしぶりにみんなで歌い、クラスという実感を得ました」

 ゼミ生のKさんとちょうど眼があった。名指しして「一人の声と全員の声とを響き合わせてみよう」と言った。Kさんは意を決したようにたくさんの学生の中でスクッと立ち上がってくれた。

 Kさんの声、みんなの声、再びKさんの声、みんなの声…。

素敵な輪唱が生まれた。次に男子学生も一人、勇気を奮って仲間をリードしてくれた。うれしい。

 Kさんは感想用紙に次のように記している。

「今日は、すごく楽しめました。歌を一人で歌うのは、当てられたうれしさと恥ずかしさ、緊張がごちゃごちゃに混ざった変な感情が生まれました。けれど、歌った後に思ったのは、みんながついてきえきてくれてうれしかったことと、一つになれた感じがしたことです。なんか認めてもらえたような清清しい気持ちになれました…」

 「こうして小さな学びの中でも、子どもたちの心をつなげあうことができるのですよ」と、そんな話をしていった。