湖面の輝きと富士
再び、ゼミ合宿のこと―。
並んでホテルの階段を上ったり歩いたりしていると、ぼくは思わずつぶやいた。
「6年生を連れて移動教室に来ているみたいだよ」
「高校生や中学生の頃がなつかしい。まくら投げしたいね!」
「おやおや!」
「先生が、突然部屋にやってきて『おい、まだ起きてるのか!』なんて怒られたりね」
「おいおい、ぼくはそんなことはしないよ」「ワハハ」
笑いが弾ける。
「みんな、寝ている振りをするんだよね」
楽しい会話が続く。
※
二日目、露天風呂にN君がいた。「いい気持ちですねえ」
その日は、ゆっくりと準備をして9時45分ごろ宿を出た。近くの星の王子様ミュージアムへ。
「『星の王子さま』って読んだ?」「英語の教科書にも出ていたよ」
「作者のサン=テグジュペリって飛行機乗りだったんだ」
ミュージアムは小さなお城のような造りで、ワイワイ言いながらみんなで写真をとった。
※
「どう、これからの予定は?」
「桃源台からロープウェーに乗って、大涌谷に行きます」
「そこで『温泉黒玉子』を食べるんです!」
確信に満ちた言葉が力強く返ってきた。実によく食べる!
ロープウェーが動き出すと眼下に芦ノ湖が見え始めた。湖面は、小さな魚が跳ねるように光のつぶを放っていた。
「きれい!」思わずみんな溜息をつく。
「ごらん、富士が見える!」
山の稜線の向こうに白銀の富士の頂上が見えた。ゴンドラが上昇するたびに富士は次第に全景を見せていく。
「うわぁ…。すごーい」
圧倒する富士の美しさ。言葉もない。
「何か、都留でみる富士と少し形が違うね」とみんな。
「あの緑の山の間にうすい紫色の山塊が見えるでしょ。その向こうがきっと都留や富士吉田だよ」
「私たち、あの富士の裾野を越えてきたのね!」
※
強烈な硫黄の匂いのする大涌谷の最上部まで歩いて念願の温泉黒玉子を食べた。満足、満足で帰ってくる。
それから箱根神社でおみくじを引いて、元箱根までドライブ。Hさんがヘヤピンカーブを巧みに切り抜けていく。対向車がほとんどない。行楽地というけれどとても閑散としている。
元箱根ね駐車して少し遅いお昼だ。
「箱根と言ったら…」
「う~ん、そばですねぇ」
みんなで蕎麦屋さんを数件物色してから多数決で店を決めた。おいしい。帰路はYさんが運転。ぼくは仙郷櫻前で下ろしてもらった。ここから小田急高速バスに乗るのだ。
ゼミ生たちはこの後、御殿場のアウトレットに寄ってから帰ったという。さあ、あたらいい年度が始まったね。