小学校の卒業式

 小学校の卒業式に出席した。久しぶりに靴箱から革靴を引っ張り出して布で磨いた。黒い革が輝きだして気持ちがいい。

 校長室で桜茶をいただく。

 昨年は体育館の入り口で扉係りだった。今日は、来賓の席に向かう。途中で5年生がいて何人かとアイ・コンタクト。互いの右手の拳を軽く触れて挨拶する子もいる。目立たないように、そっとね!

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 式が始まった。170人の卒業証書が手渡される。あの子のこと、この子のことが次々に思い出される。

ぼくの席は区長の真後ろ。証書をもらう子たちが次々に歩いてきて来賓に向かってお辞儀をする。だから正面から顔が見られる。幸せな席だった。

 『未来へ』『巣立ちの歌』『はばたけ鳥よ』『旅立ちの歌』が歌われる。高い声がのびのびと響き渡る。

「ああ、子どもたちは歌に心をのせている!」

うれしくなった。

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「卒業生が退場します。大きな拍手でお送りください」

 5人の担任が順に子どもたちの前に立った。ああ、この瞬間はぼくも忘れられない懐かしい思い出。眼差し一つで子どもたちとつながりあった。見ている人たちはその心の目の合図に気づかない…。

 退場する子どもたちがこちらを向いたとき、A君と瞳があった。A君がうれしそうにちょっと笑った。いい顔だ。大きくなったね。中学に行っても頑張るんだよ。

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 校庭で花輪のアーチに加わった。卒業生がやってくる。ぼくは、思わず花の道に飛び出して子どもたちと握手をした。

 終わって5年生たちがわあっとやってきた。

「来年は君たちだね。卒業式に来るからね」

「やったねー」

 ワイワイしゃべっていたらS君が背中に飛び乗ってきた。S先生が「そのまま、そのまま。はい集まって。写真をとってあげる」

「ワーイ!」

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 校長室で少しお話して帰ろうとすると、I先生が呼び止める。

「卒業生のOさんとお母さんが待っていましたよ」

 校庭に出ると『しいの木』の前で写真を撮りたいという。

「いいですよ」

 Mさん、Oさん、M君、H君…たち。二人で肩を組み合い写真を撮る。お母さんたちが喜んでくださる。

「今日はいらしてくれないかと思っていました」

「先生、絵を描いて!」

 ペンを片手に、アルバムや筆箱や連絡帳袋を取り出して「ここに書いて」という。久しぶりにマンモス君や太陽マークを書いた。

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 卒業を祝う校庭の声を後にしたのは1時半過ぎか。下丸子の駅に向かって歩いていると、卒業したS君がマクドナルドから飛び出してきた。『モチモチの木』のあのマメタみたいに!

「先生!」

「やあ、S君。お母さんと、ここでお昼かい。よかったね」

 二人で話をしているとお母さんまで飛び出してきた。

「お世話になりました」「いいえ」

「中学に行ってもサッカーをするのかい」

「うん、やります!」

「そうか、頑張れよ」