壊れたテレビ

日曜日の朝、テレビが映らなくなった。いつもお世話になっている電気屋さんに連絡すると、1時間もしないうちに知り合いの若い店員さんが駆けつけてくれた。

「部品の交換が必要ですね。少しテレビを入院させてください。代わりのテレビを置いていきますから…」

 大きな電気器具は大抵この地元の電気屋さんにお願いしている。何か困ったときには、すぐきてくれる。それがうれしい。もう30年の付き合いになる。

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 ぼくの小さかったとき、村には電気屋さんはなかった。ときどき大きなダンボール箱を抱えて町の電気屋さんがやってくる。ぼくらは『ナショナルのおじさん』と呼んでいた。

「このラジオ、ちょっとお聞きになりませんか。いい音ですよ」

 父や母のいる居間で新品のラジオをつける。雑音が少し続いて、それから軽快な音楽と一緒に華やいだアナウンサーの声が聞こえてきた。

 電気洗濯機とかラジオとか蛍光灯とか、ときどきそんなふうに家にやってきた。買わなかったことが多いけれど…。何だか見ているだけでうれしかった。

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 相撲とか野球とか紅白歌合戦とかラジオから流れてきた。『二十の扉』などという番組があって家族みんなが笑いながら聞いていた。たいてい土間では夜なべ仕事を母たちがしていたのだけれど。村にテレビのある家が生まれるのはそれから数年後のことであった。