ゼミ旅行、鎌倉・江ノ島へ

 久しぶりに鎌倉駅に来た。駅前広場は、ハイキングを楽しむ人たちや観光客であふれていた。

ゼミの4年生とここで待ち合わせ―。卒業旅行の日程があわない。それで、鎌倉の日帰り旅行となった。彼らは、大月からレンタカーを借りて来ると言う。

 まだ、待ち合わせ時間より少し早い。駅前のルノアールによってコーヒーを注文し連絡を待つ。リュックの中から『清冽 -詩人茨木のり子の肖像-』後藤正治著を取り出して読む。昨日から読み続けている。面白いから手元から離せない。

              ※

 30分近く読み続けていたらS君から連絡が入った。

「先生、遅くなりました。時計台の前にいます」

 地下道を通って西口に回る。M君が車の中から手を振っている。車は2台。

最初に、鶴が丘八幡宮を訪ねた。階段の最上段から若宮大路を望むと、赤い鳥居が重なるように海へと続いている。「わあ、素敵ですね!」みんな、美しい景色に心を奪われたようだ。

「桜の咲くころまた来るといいよ」と私。

 それから、小町通りを散策した。

 お昼は抜きにして食べ歩き―。抹茶ジュース、ソーセージ、おいなりさん、みんなワイワイいいながら歩き、食べる。中でもMさんの様子が楽しい。食べ物屋さんの前を通るたびに「ああっ…」「ああっ!」と悲鳴に近い声をあげて左右を見る。体は前を向くけれど顔はいつまでも、食べ物を見つめている。小さな子どものように!

 私は、ガラス戸のある古本屋さんに入って、しばらくその場を離れられなくなった。そこは、串田孫一氏の本を出版している本屋さんだった。

              ※

 そして、長谷観音へ。見学後、一路山を越えて江ノ島へ。島に続く橋を渡り、細い階段通りをジグザグに上って、サムエル・コッキング苑の展望灯台に登った。海の上に広がる大きな雲の中に、夕日が少しずつ沈んでいく。みんな思わず声を上げた。

後ろを振り返ると、島とつながる長い橋の向こうに藤沢の町が広がっている。稲村ガ崎の突き出した海岸線や鎌倉を取り巻く山々が見える。

              ※

海が、島をやさしく撫でるように両側から波を寄せている。繰り返す白い波の連続、いつまでも飽きない。

「なんだか、少し体が揺すられるみたい」

「ぼくも、そうだよ。この塔が揺れているんじゃないの」

「夜の明かりがつくまで町並みをもっと見ていたい」

と、みんな言い合ったが、何だか気分が悪くなるようで降りることにした。地上について振り返ると、塔がライトアップされていた。

灯台の明かりが灯り、細く長い尾を引きながら、それは暗くなった夜空を照らしていく。

 高台を降りてくると、対岸に光の列。それは、まるで巨大な船が薄墨色の闇の中で、全ての客室に明かりを灯し横たわっているようであった。