電車に揺られながら

 太陽が西に傾き、冷たい風が吹き始めた。少し早いけれどバックを引きずりながら研究室を出た。

「後8分で電車が来る。間に合うか…!」

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 建物の裏口からドアを開けて外に出た。カラカラと音を立てて駅への道を急ごうとしたら、ベンチに座っていた学生が突然立ち上がった。ペコンとお辞儀をしてくる。ジャージ姿の二人の男子学生。

「ああ、君たちか。もう練習を終えたんだね」

「先生、先ほどはありがとうございました」

 今日もグランドの隅で鉄棒のお手伝いをしていたが、そこに居合わせた二人の学生だった。おしゃべりをしながら技のタイミングを話し、補助してあげた。

 小さなつながりでも心が通い合うとうれしい。

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 改札口に駆け込むと一人の学生が切符を買っていた。私の番になって行き先を告げる。学生が振り向いた。

「ああ、先生!」

「なんだ、Mさんだったのか。今帰り?」

「はい。先ほどまで食堂でおしゃべりをしていたのです」

「大月まで急行に乗るよね。だったら一緒に帰ろう」

 ボックス席に向かい合って座った。西日が彼女の髪や顔を染めた。私は富士を背にして。

 Mさんが語りだした。

「R県の採用者たちが昨日一同に集まりました。学校のことや子どもたちについてのお話ではありませんでした。いろいろな手続きについてのお話でした」

「そうか、いよいよ4月からは教師だね」

「それで、順に役所の方とお話をしていったのですが、広い部屋でしたから、その声が聞こえてくるのです。『あなたは臨採をしていましたね』『はい、2年生を教えていました』…なんて。私は、そんな経験はありません。何だか遅れて出発するみたいで不安になりました」

「あれあれ、そんなことを気にしては駄目だよ。それは『比較の眼差し』だ。ゼミで話したよね。自分を追い込んでしまうものの見方をしないようにって。同じ条件で『あなたが相応しい』と思われて採用されたのです。誇りを持ってやりなさい」

「はい。…でも、次に集まるのが3月25日なんです。それまでもう集まりはありません。何を準備し、何をしたらいいか、まったくわからなくて、これでいいのでしょうか」

 私たちの時代は、訳もわからず現場に舞い降りて、見よう見まねで何とかやり抜いていった。しかし、今はそうもいかないだろう。

それで、お話をした。

「じゃあ、4月が始まる前にすべきことを、大月に着くまで、これからお話してあげよう」

 私は、揺れる電車の中で新任教諭の4月の始まりの準備について語りだした。話し出すと語りきれない。終点の大月駅に電車が止まった。

「よし、また今度この続きを話してあげるからね」

「よろしくお願いします」

 駅のホームで別れたのだけれど、今年の採用者たちで希望する学生がいたらみんなに話してあげてもいいかなとも思った。

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 そうだ。『学びのWA』が3月の初めに『はじめの一歩』に取り組んでくれる。そこに参加をするといい。これは、岩辺先生が最初の企画を立ててくれたユニークで楽しい取り組み。企画が決まったら案内します。

 明日、22日には池袋の生活産業プラザで第19回『学びをつくる会』があります。このブログを読まれた方、是非、参加してください。