逆上がり

 「先生、来週の水曜日、逆上がりを教えてください」

 ゼミの時間、3年生のGさんとIさんとHさんが真剣な顔で言った。

 「どうしたの、今頃。まだ教員採用試験には早いじゃない」

 「1月○日、テストがあるんです。『逆上がり』ができないと体育の授業の単位がもらえないんです」

 どうやら後期の授業が始まった頃から、「練習しておきなさい」と言われていたようだ。

「じゃあ、来週見てあげる。4年生のTさんなんか一日でできたよ」「私、ダメなんです。まだ、一度もできたことがないんです」

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 来週と言っていたけれど、GさんとIさんは私をつかまえて「先生、今見てください」と言う。

「院生のYさんとお話があるから、終わったら鉄棒のところへ行く。練習しているといい」「はあい、待っています!」

 外はグンと冷えていた。フィールドの遥か向こうの鉄棒に二人の姿が見える。男子学生も二人。

「やあ、K君じゃない」生活指導論を受講する一人。

「先生、覚えていてくれたのですか」

 K君とA君は鉄棒に飛びついて『腕立て前回り』の練習をしている。「腕立て前回りは難しい。胸を張る。前に倒れこみながら、最後の瞬間、少し手首を返すんだ」

「先生、テストは3回連続できなくてはいけないんです」

「それは簡単ではないぞ。毎日練習しないと」

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 GさんとIさんの逆上がりをみる。補助に立つ。「腰を引き付け、腿が鉄棒にかかるようにね…」

 近くに高鉄棒がある。ついぶらさがりたくなった。『蹴上がり―腕立て後転―飛行機跳び』。連続技をして、できるだけ砂場の遠くに飛ぼうと、6年生たちと競い合った日々がなつかしい。私のずっと若かった頃のことだけど。補助も実演もほどほどにして止めておいた。腰を痛めたら、一ヶ月は苦しむことになるもの。