逆上がり
「先生、来週の水曜日、逆上がりを教えてください」
ゼミの時間、3年生のGさんとIさんとHさんが真剣な顔で言った。
「どうしたの、今頃。まだ教員採用試験には早いじゃない」
「1月○日、テストがあるんです。『逆上がり』ができないと体育の授業の単位がもらえないんです」
どうやら後期の授業が始まった頃から、「練習しておきなさい」と言われていたようだ。
「じゃあ、来週見てあげる。4年生のTさんなんか一日でできたよ」「私、ダメなんです。まだ、一度もできたことがないんです」
※
来週と言っていたけれど、GさんとIさんは私をつかまえて「先生、今見てください」と言う。
「院生のYさんとお話があるから、終わったら鉄棒のところへ行く。練習しているといい」「はあい、待っています!」
外はグンと冷えていた。フィールドの遥か向こうの鉄棒に二人の姿が見える。男子学生も二人。
「やあ、K君じゃない」生活指導論を受講する一人。
「先生、覚えていてくれたのですか」
K君とA君は鉄棒に飛びついて『腕立て前回り』の練習をしている。「腕立て前回りは難しい。胸を張る。前に倒れこみながら、最後の瞬間、少し手首を返すんだ」
「先生、テストは3回連続できなくてはいけないんです」
「それは簡単ではないぞ。毎日練習しないと」
※
GさんとIさんの逆上がりをみる。補助に立つ。「腰を引き付け、腿が鉄棒にかかるようにね…」
近くに高鉄棒がある。ついぶらさがりたくなった。『蹴上がり―腕立て後転―飛行機跳び』。連続技をして、できるだけ砂場の遠くに飛ぼうと、6年生たちと競い合った日々がなつかしい。私のずっと若かった頃のことだけど。補助も実演もほどほどにして止めておいた。腰を痛めたら、一ヶ月は苦しむことになるもの。