ユーモア

 生活指導論の講義の始まりは、二つのことから。一つは、授業の感想を取り上げて学びの交流をすること。もう一つは、その月に相応しい、私がかつて発行した学級だよりを紹介すること。

 今週、取り上げた学級便りは、冬休みの明けた新学期第一日目の朝の出来事。

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 冬休みが終わって新しい年の始まり。うれしいのは、みんなに会えること。わくわくして2年生の教室に向かう。おやおや、下足箱のところにK君、M君、H君がいる。挨拶をしようと思ったらK君が私の横をすり抜けて教室に走っていく。

 教室のドアを開けると、K君がいない。

「K君、いたはずなんだけどなあ」

「ワォ!」

 教卓の後ろからK君が飛び出してきた。隠れていたのだ。

「ああびっくりした! やられたなあ。今度は先生が驚かしてやるからね」「へへーン、やられないもんねぇ」

 K君は得意そうに教卓から顔を出して笑っている。

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 それから、みんなが次々にやってきた。うれしそうにあちらこちらでワイワイキャアキャア話してる。

Y君とR君が追いかけっこを始めた。だんだん激しくなって、友だちの机にぶつかりながらリレーみたいに走り出した。じゃれあいなんだけれど、これは危ない。ぼくは言った。

「Y君、R君。お出で。君たちはいけないことをしたね。両手を出しなさい」

 二人は、ぼくの真剣な言い方に「やばいぞ」と言う顔をして恐る恐るやってきた。

「Y君、R君、君たちは今年一番に注意されることになるね」

 観念した二人の手をとってぼくは言った。

「二人とも、今年一番にチューされることになるね!」

「ギャーッ!」

 二人は、ぼくのつかんだ手を振り払って悲鳴をあげて逃げ出した。教室は爆笑の渦。新年の楽しい始まり…。

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 講義の後の感想文に、この学級便りのお話を取り上げた学生がいた。

『先生の「あくしゅ」の文を読み、すごく心があたたかくなりました。中でも、はしゃぎすぎた子どもに「ふたりとも今年一番に注意されることになるね」と言う言葉の後の「チューすることになるね」というユーモアあふれる言葉は愉快で、心温まるなあと思いました。私が小学生のときも…(以下、面白い体験談が続く)。子どもへの注意もきちんとしつつ子どもを愛することのできる先生に私もなりたいと思いました』

 こんなふうに読んでくれるとうれしい。