成人式
品川のイベントホール『きゅりあん』で、20歳になる若者たちの成人式があった。
天気は快晴。暖かな光の中。休日の人の流れはやわらかい。
M先生だ。
「よかった、ここでお会いできて!」
肩を並べて歩く。5・6年生を共に担任した先生だ。深い感動を生み出した劇のことや、野焼き、東京博物館探検隊など、次々と楽しい実践を子どもたちと重ねていった。歩いていると懐かしい思い出が二人の口からあふれ出す。
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エレベーターに乗る。そこは華やいだ若者たちの世界。きらびやかな着物姿が乗り込んでくる。式典は8階のホール。私たちは『成人と恩師』の出会いの場に入る。ちょっとためらいながら…。
成人式実行委員たちが企画したイベント会場。
「クラスの子どもたちの名前はわかるけれど、先生のクラスの子たちの名前がわからない。卒業アルバムを持ってきたのです」
「あら、それはありがとう。私にも見せてください」
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しばらくすると式典の会場から着物姿や背広姿の若者たちが降りてきた。ちょっと胸がときめく。十二歳の少年や少女たちが20歳を迎えるのだから! 変わっただろうな。分かるだろうか。
「先生!」と着物姿に髪飾りをつけた若い娘が一人。
「あっ、あなたはKさんでしょう」「どうしてわかったのですか」「それはわかるよ。面影があるもの」
次々と教えた子たちや隣のクラスの子たちが現れる。
「君はU君だね。君はS君だ」二人は隣のクラス。
「ラーメンをおごってあげたのを覚えているかい」「覚えています」
中学のバスケ部で活躍した少年たち。高校生になる日、小学校へ遊びにきたから、まとめてラーメン屋さんに連れて行った。
そこに白い着物にはかまをつけた青年が現れた。
「先生、ぼくですよ。わかりますか」
「えっ、君は…?」「先生、ぼく、先生のクラスです」
わからない。どぎまぎしてしまった。
「Kです」「ええっ! まさか、君があのK君かい?!」
見事なほどの変身ぶりだ。肩を叩きあい抱き合った。
「会いたかったよK君」「先生、俺も!」
「今、働いてるんでしょ」「うん、土木工事をしているよ」
「君は先生の膝の上で泣いたっけなあ」「覚えているよ」
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今度はI君とT君が現れる。
「先生、お久しぶりです」「野球やっているんだな。新聞に君の名前見つけた」I君の胸はガッチリと厚い。
彼らが中学生のとき甲子園球場まで高校野球を見にいった。
「先生が行くとき、絶対に連れて行って」と頼まれていたから。
早朝の新幹線に乗り10時には球場についた。夕方の6時頃まで暑い中を氷ったペットボトルをなめながら夢中で見ていた。行き帰りはトランプをずっと続けていたっけ。
「レギュラーで出られたらいいね。応援に行くぞ」「えっ、来てください」
「先生、今度俺たち遊びに行くから!」「いいよ、待ってる」
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今度は女の子たちだ。キャーと言ってやってきて「先生、私」と言ったって分からない。「ええと…、ええと。もしかして、もしかして…」
「Sですよ」「Tですよ」「ええっ、君たちか。わあ、わかんなかった。ますます美人になりましたねえ」
何だかすっかり変わってしまって驚く。でも、おしゃべりをしていると昔の姿が甦る。
それから、それから、懐かしい顔とであっておしゃべりして帰った。彼らの人生に良いことがありますように。