母に

 大晦日から新しい年へと、義父を介護リハビリ施設から連れ出しホテルに泊めた。娘たち夫婦や下の娘もやってきて共に過ごす。ホテルでは、声がかかるたびに車椅子に乗り換えトイレに連れて行く。服の着脱もできないからできない。だから手助けする。これを日常的に家庭でしている人もいるのかもしれない。大変なことだ。

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二日の午後、義父を施設に送り、わたし一人袋井の母を訪ねた。

88歳の母は、炬燵で腰を痛めて体を動かすのがやっとのこと。板戸を開ける。母は、部屋をしめきり、暗い部屋でストーブをつけながら体を丸めて昼ごはんを食べていた。

「こんなみっともないかっこうでごめんね」

「部屋は散らかしっぱなしでごめんね」

と母が言う。

「昼ごはんは食べてきたか」

私は食べてはいなかったが「ああ、さっき食べてきたよ」と答える。昼抜きぐらいがちょうどいいだろう。

「お茶を飲むかエ」と言うので、「うん、もらおうか」と答える。

 湯呑みをさしだすと急須の取っ手が折れているではないか。

 台所にはたくさんの箱や私物が置いてあってゴタゴタしている。全部新しくしたり片付けてあげたりすればいいのだが、母にはそれが許せない。全てが自分とのつながりで居場所になっているのだ。

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 「『短歌人』の3月号の初めの歌の特集に載せる歌を頼まれたんだよ」と母が嬉しそうに言う。

「そうか、よかったね。88歳、まだまだ現役だ。ぼけていられないね」

 それから言った。

「暮れにテレビを見ていたらね、99歳の素敵な詩を書くおばあさんが登場したの。詩の本を出版していたよ。それが心に残るいい詩だよ。読む人がみんな勇気づけられてね。

身だしなみもカッコいい。病院に行くのだけれど、おしゃれもして詩を書いているんだ。母さんはまだ88歳、負けていられないね」

母を勇気づけるつもりで言った。

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これが面白かった。4時ごろ弟夫婦と子どもたちがやってきたが、弟夫婦も、私の見たテレビを見ていて感動したというのだ。

「母さん、頑張んなくちゃあ」と弟。

 夕方のの6時を過ぎて兄夫婦とその子どもたちが現れた。みんなで飲み食べたりした後、兄が突然言った。

「おい、あの本をもって来てよ」

 連れ合いが立って本を取り出した。

「ねえ、その本って、もしかしたら99歳のおばあさんの書いた詩の本じゃないの」と私。

「そうだよ。よく知っているね」

「ぼくは、年末のテレビで知ったんだ」

「ああ、俺の方は新聞で確かそのおばあさんが紹介されていたんだ」

 集まったみんなで、テレビで見たり新聞の紹介で読んだりした詩の内容をあれこれ紹介しあった。

 おばあさんの声も読み方もいい。人生の悲しみや喜びが珠玉の言葉と声で紡ぎだされていく。

 詩集の題名は『くじけないで』作者は柴田トミさん、99歳。

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 3人の兄弟が3人とも同じことを考えていたのが、愉快だし嬉しい。