家族

 ぼくは目覚める

 人のざわめきと小さな物音がして

まだ夜明け前だ

あたりは暗闇ばかり

 冷たい空気の中を

 襖障子(ふすましょうじ)のすきまから

 白い霧が流れこむ

 湯気だ!

 ぼくは飛び起きる

 「きょうは、餅つきだ!」

 座敷の戸を開け 中の間の戸を開け

 明かりのついた居間へ飛び込む

 寝巻きのまま

 おばあちゃんが、搗き立てのもちを小さくちぎりながら言った

 「高志も手伝うかえ」

 母が蒸篭(せいろ)をあける

ふかした米を網ごと持ち上げて臼に移す

白い湯気が竈(かまど)の回りに立ち込める

父が餅をこねる

「ガッ、ガッ」と小気味良い音

兄ちゃんが変わってこねる

「グイ、グイ」と押し込む

「そろそろ、いいかいねえ」

母が水桶に手をひたしながら臼の横についた

父が杵を持ち上げる

杵は、わずかな時間空中にとどまる

右手をすべらせる

「よいしょ!」

「ズズッ」と音がして

母が応える

「はい!」

ぼくは見つめる

「いつか、あの杵で餅をつく」

弟が寝ぼけた顔で起きてきた

おばあちゃんの横にくっついて笑う

「スポン!」

杵の音が響く

手のひらを打つように高らかに鳴り始めた

明日は大晦日だ