山の散歩

 一昨日は大学会館に泊まった。目覚めると辺り一面霧だった。部屋を片付け荷物を背負い玄関を出る。路地を曲がると、マフラーを首に巻いた少女が本を読みながらランドセルを背負って立っていた。友だちと待ち合わせをしてこれから学校へ行くのだろう。

 小さなパン屋さんに寄った。扉を開くと可愛い鈴の音がした。

「いらっしゃいませ」

「サンドウィッチを一つ下さい」

               ※

 霧が晴れてきた。白い幕が外れるように山々が姿をあらわし始めた。

 お昼少し前になって楽山公園にひさしぶりに登った。辺りの木々は葉を落とし、見晴らしのいい小さな丘になっていた。足元にたくさんの落ち葉。みんな紅葉だ。歩くたびにカサコソと音を立てる。

 遊歩道に沿って山道を登ることにした。滑りそうなくらい急な斜面もある。曲がり道を登っていくと、上から青い影が降りてくる。女子学生だ。こんな山道に一人とは…。

「こんにちは」と私。

「先生」と声が返ってくる。

「あれ、もしかしてぼくの授業を受けている方ですか」

「はい。○○です」

「じゃあ、生活指導論の授業ですね」

「先生も山登りですか」

「うん、楽山が好きなんだ。春夏秋冬、木々の葉の変化が楽しいからね。あなたは…?」

「授業で使うどんぐりを拾いにきたのです。ちょっと遅かったのですが」

 それから、いくつか会話を交わして別れた。私は山の上まで登って赤い小さな木の実とオレンジ色の、こちらも小さな木の実を採って帰る。研究室の入り口にちょこんと引っ掛けておいた。