モダンダンス

 研究室に3年のHさんが訪ねてきた。

「先生、モダンダンスサークルの発表前練習が6時半からあります。来てくださいますか」

 私は、手帳に書きとめられていた約束を思い出し、うれしくなって言った。

「勿論、行くよ。絶対見たいと思っていたからね。ずっと、みんなに約束していたのに、それが果たせなかったもの!」

「ええと、6時25分にコミュニティホールに来てください。案内係りがいますから。それから、みんなも喜びます」

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 私は、夢中で踊っている若者たちの姿を見るのが好きだ。駅前広場でも、ちょっと立ち止まって遠くから眺めている。あんなふうに踊れたら楽しいだろうな、なんて…。

 それから、私はずっと昔から、学級集会の楽しい祭りに『振り付けコンクール』を取り入れてきた。学校で歌う曲や流行の曲に合わせて班ごとに力を合わせて踊りを創り出すのだ。これが、楽しい。好きな子同士でなく班で取り組む。トラブルが必ず起きるけれど、最後はいつも感動。子どもたちは爆発する。

男の子たちが本気になって踊りだすと、驚くような世界が立ち上がる。勿論、女の子のアイデアにドキリと心を奪われ舌をまくこともある…。保護者たちは、この日、ビデオを持ってきて撮影する。

 音楽に合わせて体を動かすって素敵なことだ。教室に夢が広がる。

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 5限の授業を終えて、コミュニティホールに向かう。ちょっと一人では照れくさい。Gさんも行くというから誘って行った。

 扉を開けると、中は暗闇の別世界。階段状に椅子が並べられ舞台が目の前に広がっている。サーカスを間近で見るみたいに…。

「一番前に、どうぞ」

と案内され、前列の真ん中に座った。胸がときめく。

 DJのようなアナウンスが突然流れ出した。光が点滅する。

 舞台が明るくなる。その瞬間、30人のダンサーが一度に踊りだす。激しい群舞。

揺れる、止まる、回転する。流れる、座る、立ち上がる。手のひらが、足が、頭が、体が、腰が、激しくリズムを打つ。人間のふだんとは違った鋭い表現が、見るものの心をとらえ引き付ける。

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彼女たちの発表日は20日。私はこの日、都留臨床教育学会第2回の総会があって鑑賞できない。

「見られないんだ。残念だなあ」と言ったら、「先生、衣装をつけた最終練習が前々日にあります。そこに来てください」と、わざわざ誘ってくれたのだ。

素敵な踊りは1時間を越えた。終わって深いため息をつく。席を立って出口に向かうと、そこにメンバー全員が並んで待っていてくれた。

「先生、見学に来てくださってありがとうございます」

「いいえ、僕の方が素敵なダンスを見せてもらってうれしかったよ。若かったら一緒に踊りたかったね」

 そういうと、みんな楽しそうに大きな声で笑った。素敵な時間を彼女たちからプレゼントしてもらった。