雑誌を読みながら

 雨が降る前に神保町に行った。『書泉』に寄り、それから『三省堂』に行く。詩集を一冊買い、喫茶室でお昼を食べながら雑誌『教育』の12月号を読んでいた。月曜日だから人が少ない。

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 特集Ⅰは『「生きづらい」若者たちを支える』―。

北海道の大口久克さんの論文『地方における青年の自立と共同』を読む。大口さんは、教職員組合の書記長を5年ほど続けられ、また現場に復帰した中学教師。北海道でお会いする機会があって、その後、心暖まるお手紙をいただいたり声をかけていただいたりしている。

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論文に登場する若者たちは、大口さんをかつてないくらい困らせた教え子たち。その彼らが、ふるさとで生きる姿をえがいている。

「九〇年代の前半。私は教員人生のなかで大きな窮地を迎えました。校舎破損、対教師暴力、いじめはもとより、関係機関の世話になることもあり…」こんな文章が続く子どもたちだった。

彼は、問題を起こす「突出生」の一人T君の「人生の節目節目」に付き合っていく。T君は都市部での葬儀会社に勤めた後、故郷にもどって葬儀会社をおこすのだ。

ここにはT君だけでなく彼を困らせたS君やA君も登場する。その彼らが『今を一生懸命に生きてようとしている姿』が、彼ら自身の持つ確かな要求と共に伝わってくる。

彼らは「愚痴を言い合い」「本音を語りながら」「お互いの『人間味』を無意識のうちに確認しあっているように思える」と大口さん。「そしてそのことは新自由主義がもたらす人間関係の分断を容易に許してはいないと感じます」と。

厳しい困難が地方を直撃している。大口さんは、この関係性の中に自分への信頼や仲間への信頼が生まれ、それがそれぞれのもつ「人間味」を豊かにし、今日の「不条理への抵抗の原動力」となっていくのではないかと希望を述べている。

今の日本の政治や経済に憤りを感じながら、地域で生きる教え子たちと、共に心をつなげて今を生きる大口さん。あらためて凄いなあと思う。

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特集のⅡは佐藤博さんと糸岡さんが編集を担当。テーマは『子どもと教育に“野性”の回復を』。ドキリとするテーマだ。子どもの深い人間性の原点にせまる企画を打ち出している。

今年92歳になる教育学者・大田堯さんへのインタビューを佐藤さんがまとめ、子ども、学び、教育などの深い哲学が語られ、読むものの内面が揺すられる。

12月号の、佐藤博さんの映画評は『冬の小鳥』。少女ジニの息遣いが、耳元に聞こえてくる。何かを見つめる眼差しが目の前に迫ってくる。私は、映画をみることがほとんどない。でも見なくてはなと思った。