チリの鉱山落盤事故と人間の生き方

 『生活指導論』の始まりに『チリ鉱山の落盤事故と人間の生き方』について語った。先週の救助の様子を私はテレビで見ていない。それが放映されている頃、都留に向かっていた。

新聞報道を丁寧に読んだ。そして私の心に残ったことを話した。もしこの事故に私があっていたなら、おそらくパニックになってとても生きて帰れなかっただろう。

そのことに触れてから、以下のことを話し始めた。学生たちは、みんな静かに耳を傾ける。

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私はこの事故の報道を読んだとき、人間の生き方について考えました。①閉じ込められた地下において33人はパニックにならなかったのだろうか。②飲料水や食料はわずかしかない。いったいどうしたのだろう。(水は60ℓ、食料は三日分の缶詰)③助かることへの希望をどのように持ったのか。④仲間たちの内部に亀裂や攻撃的な言動はおこらなかったのだろうか。

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注意深く記事を読む。すると、決して初めから彼らがうまくいってはいないことが分かる。幾人かが次のように語っている。

「最初はとても難しかったが次第にグループを作るようになり、お互いの結びつきが強まるようになった」「突然、必ずしも最善とはいえない行動をとった」「最初は本当に難しかった。決意を持ってやったし、グループに分けて班長を決めたんだ。こんな状況下では規律を保つのが一番大切なんだ」と。

彼らが、最初の危機を乗り越えて、人間的な連帯に向かっていく姿が読み取れる。凄いな!と思った。

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助かるためにしたことも心に残る。叫ぶ、タイヤを焼き、煙を送る。小さな爆発を起こす。それらが無理とわかったとき祈る。小さなドリルの音が遠く聞こえる。希望をすてない。食料は全員の多数決で決める。生き延びるために3日食べない日もあった。どんな小さなことも全員の多数決で決めた。

掘削機が彼らの目の前に現れたとき、みんなはそれに飛びついた。そして紙に書く。「33人全員無事」。これが17日目の出来事。

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生存が確認されてから、決まった時間に、およそ決まった内容で食料が送られる。睡眠、労働、休息の時間を8・8・8にしたという。まるで労働者の最初のメーデーの要求のようだ。この規則正しい生活リズムによって人間の精神的な混乱を防いでいくのだろう。

「最初にカプセルで引き上げられたアバロスさんは31歳だ。なぜ、彼が選ばれたと思いますか。ここには理由があります」

こんなことを語っていった。

最も困難な状態に陥った彼らとった行動は、弱肉強食の強いもの勝ちの生き方ではなかった。民主主義を選んだのだ、それって凄いことだとは思いませんか。人間に対する希望だと思うのです。

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この日の授業は、生活指導の別の問題に多くを触れた。しかし、感想にこのことに触れて何人かが書いていた。その中で、私が話し忘れていたことをしっかりと指摘してくれた学生がいた。

「チリの鉱山の労働環境や条件が決してよいものではないと思います。そのことを忘れてはならないと思います」

まったくだ。チリの民主政権がクーデターによってつぶされ多くの人たちが虐殺されたことについて触れなくてはと思っていたが、そこまで語れなかった。来週、この学生の感想を是非みんなに伝えなければと思った。チリではこの労働者たちが、シャワーもない中での暮らしを続けているのだ。