教師のバトン

 ゼミの3年生たちに課題を出した。

「教育実習に行ってきたでしょ。そのときの感想をミニレポートにまとめてゼミで話してください」

 レポートはおよそ4つの柱。

①子どもたちについて …発見・驚き・喜び・困難・苦労など

②授業について ア…日常取り組んだ授業 イ…研究授業

③学校・教師・教育について考えたこと

④これから大学でさらに深めていきたいこと

 以上。

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 トップバッターはYさんとIさんの二人。丁寧にまとめてきてくれた。二人とも実習前と顔つきが違う。いい顔をしている。

「何だか雰囲気が変わったね。これまでもしっかりしていたけれど、実習を終えて芯のある存在感というのか…、何だろうこの違いは…」と私。

 子どもたちと出会い、たくさんの教師たちと出会い、学校で数週間を共に過ごしてきたこと! その時間の重さ! そして何よりも子どもたちから「先生!」と呼ばれ、信頼され、かけがえのない一人の教師として責任を果たしてきたこと! これって凄いことだなと思った。青年を、人生の新しい質と力に押し上げる。

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 わたしは、4月まで実習生を受け止める側だった。これまで新採教師の担当は5人、教育実習生は3人担当した。

私は、実習生の指導を頼まれたとき、とてもうれしかった。なぜなら、子どもたちに忘れられないような素敵な出会いを創り出すことができるからだ。実習生の、純粋ともいえるような子どもへの眼差し。子どもたちの、まるでヒーローやヒロインを迎えるような、憧れの心。みているだけで胸がキュンとした。涙の別れは、人が出会うことや別れることの、かけがえのないひと時を作ってくれた。

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「先生、実習記録を見てください」

ゼミ生たちが実習記録のノートを次々に持ってくる。指導教官のコメントと印が必要なのだ。それを教務に提出して単位となる。

 私は、最初の日から最後の一ページまで全部を読み通す。そこには、若者たちの驚きと感動が真摯に綴られている。

そのとき、私は、受け入れてくれた学校と担当の指導教諭に深く感謝する。突然の出会いにもかかわらず、実習生をいとおしみ、大切な時間を割いて全力で指導してくださっているのだ。最後の研究授業や子どもたちとの別れまで演出してくださっている。本当にありがたいなと思う。

 教師のバトンは、こうして受け継がれていくのだ。