柿の実

 「柿の木は折れやすいから登ってはだめよ」

 母さんが言った

 しかたがない ぼくは

壁のない納屋に入り込み

 束ねたわらのすきまから破風を通り抜けて屋根に出た

 ここなら取れる!

 赤い実に手がとどく

 古い瓦がゴトリと鳴った

 落ち葉と苔で足をすべらせないように

 慎重に 慎重に 一番上の屋根に

 落っこちても誰も助けにはきてくれない

 両足でふんばる

 立ち上がる

 初めて来た空の世界

 ぼくのからだに秋がしのびこむ

 突然、にぎやかなざわめき

 これは 何?

 ああ、聞こえる

柿の木と 竹やぶと 森の木たちが話しているんだ

 「このちび、やるじゃないか」

 「一人で空の扉を開けたんだ」

 「秋の秘密を知ったな」

 「許してやるか」

 「それもいいだろう」

 ぼくは ふるえる手で一番大きな柿の実をつかみ 空を見つめる

 「いいさ。おまえにやるさ」

 ぼくは 許しを得て 柿の実をグイともぎとる

 世界中の秋が ぼくの手のひらの中にある