あれ、もうこんな時間

 待ち合わせは3時。教え子のKさんと出会う約束の時間。うだるような暑さの中を待たせたらいけない。駅の改札口に急いだ。5分前。電車が到着した。階段から人があふれ、急ぎ足で街へ散っていく。その人ごみの中に知った顔を捜した。そのとき、横合いから声がした。「先生!山崎先生…」

「Kさん。やっぱりあなただったんだ」

 駅の構内を見渡したとき、ひとりの背の高いすっきりとした女性が立っていた。横顔をそっと見る。間違えたらいけない。前に回るのは失礼だろう。それで、ずっと前を見ていたのだ。

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 なつかしい出会いだ。何十年ぶりだろう。

「ぼくが、ちゃんとわかったんだね」

「先生、このあいだ電話で『変わっているよ』って言ったでしょ。でも全然変わっていませんよ。前の雰囲気そのままです」

 お世辞が半分かな。でも弾む心で近くの店に行って話した。

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 Kさんは、わたしが30歳のとき5・6年で担任し卒業させた子。いま40歳を少し越えたところかな。当時の懐かしい話をする。子育てやPTA活動、当時の仲間たちのこと…。

「いま先生、学童の連絡会の世話人をしています。みんなの声を集めて役所と話をするっていうのですが、始め、たいしたことないと思っていたら、いろんな要求があってびっくりしました」

「そうか。Kさんにぴったりの仕事だね」

「先生が私たちの学校に来たときのこと、今でもはっきりと覚えています。何か熱いものが、ピーンと伝わってきました。それから、先生は真実一路って感じでみんなを引っ張っていきましたね」

 当時を思い出し、恥ずかしくなった。

「ぼくは、あやまるよ。あの頃、ぼくの思いでクラスを引っ張っていったと思う。その後はね、理想は掲げるけれど、子どもたちみんなと一緒にゆったりとその道を歩いていこうと思ったんだ」

 Kさんは、不思議そうな顔をしている。そうだよね。輝くような教室の日々だったから。

「私のお母さんがね、家を整理してる時、あの頃の学級通信『飛べ!503』…を見てね、あっこれは捨てられないって言って今もちゃんととってあるんです」

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 Kさんの二人の子どもの写真を見せてもらった。

「これって、Kの5年生の時の姿とそっくりじゃない!」

 時間は瞬く間に過ぎていった。気がつくともう5時を回っていた。また今度、Kさんの友人のFさんも含めてお話しようって約束した。