教室詩集(3)

わたしの中のわたしへ―さよなら五年生、ありがとう五年生

五年生に「さよなら」を言ってみないか

五年生に「ありがとう」って言ってみないか

一年間を過ごしてきた

わたしの五年生とぼくの五年生にさ

小さかったぼくの中にふくらんだ悲しみや怒り

やわらかかったわたしの中に

つきあげてくる激しさ

友だちが少し信じられなくなって

友だちを信じようとして

心がゆれて空を見た

空はいつもと何も変わらなくて

ヒューと風が流れていった

心の中にさみしさとなつかしさとあついかたまりをみつけた

ランドセルがこのごろ肩に引っかかる

この一年間にわたしの背中でゆれながら

友だちとときどきランドセルを取り替えたりして…

走って帰る

トボトボ帰る

母さんに秘密を知られないように帰る

そんな日もあった

ランドセルが

「ずいぶん大きくなったね」

とぼくに言う

ぼくが気づかぬうちに

ぼくは大きくなっていたんだ

五年生、ありがとう

ぼく大きくなったよ

少し強くなったよ

五年生、ありがとう

わたし、さみしさに負けなくなったよ

つらいときもちょっと笑ってごまかしたけどね

わたしをわたしが支えてくれて

わたしが大きくなった

五年生はもう二度と来ない

明日から永遠の過去に流れ込む

でも、ぼくのわたしの今につながり

未来を生みだす力になっている

ありがとう、五年生

もうへっちゃらだよ

勇気を出して

明日に向かうよ

さようなら、教室

さようなら、五年生

               ※

 部屋の本棚に、初めて教師になったときからの学級通信や作文集、親子新聞などが横になったり縦になったりして、詰め込まれている。38年間分だ。引っ張り出して、読もうと思うのだけれど、そのまままた引っ込めてしまう。

 結局読みかけの本を読んだり、読み終わった本から心に残ることをカードに抜き書きしたりしていた。