教室詩集(2)気もち  野呂 崇(ペンネーム)

わけもなく ぼくは 叫んでしまう

もう一人のぼくは 「やめろ」って言っているのに

おなかの底に ふつふつと渦がまき

怒りなのか いらだちなのか

抑えても抑えても 出てくるのだ

薄ねずみ色のガスが

        ※

「やさしい子だ」、と母さんが言う

「頑張りやだ」、って先生が言う

ぼくは やさしいぼくを知っている

ぼくは 頑張りやのぼくを知っている

そして 素直に自分を見つめられる

        ※

「ウルセエナー」「テメエ!」「カッタルインダヨー」

知らぬ間に ぼくの中からあふれ出す言葉

ていねいに積み上げた弟の積み木を 訳もなくガチャンと壊す

そうだ ぼくはいつだったか

学校のドアをバンと蹴った

        ※

教室のシクラメンは 冬の日を受けて やさしい

青い空が 窓の向こうに続く

ぼくはもう一度 四年生や五年生のときのように

やわらかで やさしい気もちを取り戻せるのだろうか

        ※

鏡に映るぼくの顔は 変わらない… 昨日と

でも なぜ

ぼくには いらだつ日とやさしい日があるんだ

A君のことを嫌いじゃない

だが たった一言にむかついた

そして 蹴った

こんなぼくじゃなかったはずなのに…

         ※

「テメエラウルサイゾ」

学校の帰り B子が叫んでいた

B子にも抑えられない自分があるんだな

やつもいいとこあるのに… でも

ザラザラと ザワザワと 嫌な気がする

干からびた人間の声だ あれは

         ※

「いらだちを乗り越えて 人間らしいやさしい力を育てるのだ」

と、先生が言った

俺に できるだろうか

俺に できるだろうか

※卒業を前にした3学期、子どもたちに贈った詩。わたしは、その詩の下に言葉を書き添えた。

『君たちも野呂君と同じような気持ちになったことはありませんか。野呂君は、自分と立ち向かって必死に闘っています。

 君たちの中に、新しい自分を創り出す力がわきおこっているのです。でもそれは危うさを含んでいて、自分で闘わなかったら崩されていく。乗り越えるとき素晴らしい力に変わります。

 中学生に向かって、思春期の入り口にさしかかりました。自分の中に渦巻く感情と向かい合いながら、自分を見つめ育てるときです。このチャンスを思い切り生かして、まえよりももっと人間らしく伸びていってください』