五月

 青空に光が走る

 五月の風は、

木々の梢を渡り、葉裏をゆすり

空へとかけのぼる

 鯉のぼりが舞う

 風を呑み、背びれを揺らし、踊る

風の止む一瞬

尾びれは、静かに体を休め

少年の頬を打ち、なでる

「母さん、ただいま」

手作りの鯉のぼりが、汗ばんだ少年の手に握られている

 板塀を越えて、再び五月の風が来るとき

 カラカラと金色の音を立て、空の風車は鳴る

 

 少年は空を見上げ、鯉のぼりに語りかける

 「おーい、いつかお前を、くぐりぬけてやるからな」

 そのとき、少年の小さな手作りの風車が

 かすかに震え、虹色の音を立てたのだが

 少年は知らない


 五月の風が吹きぬけていく