少年の日に(21)12歳
「自習」と黒板に大きく書いて
N先生は、教室から出て行った。
ぼくの、苦しい時間がここから始まる。
先生がどこに行くのか、誰も知らない。
扉を後ろ手に閉め、大きな背中が消えていく。
「逃げ出さないでずっとここにいてくれたっていいじゃないか」
ぼくはそう思った。
仲間たちは、陽だまりに椅子を寄せ
ひそひそと会話を交わし
笑いながら算数の問題を解いている。
ぼくが近づくとふと風が止む。
少年たちの頬を、吹きぬけていた歌うような風が…。
みんな、ぼくを仲間外しにしているわけではないのに
小さな淀みが生まれる。
彼らにあって、ぼくにはないもの!
ぼくのなかにある、彼らを戸惑わせるもの、
それがなんであるのか!
ぼくは、12歳の日々
そのことをずっと考えながら生きてきた。