少年の日に(2112

 「自習」と黒板に大きく書いて

N先生は、教室から出て行った。

ぼくの、苦しい時間がここから始まる。

先生がどこに行くのか、誰も知らない。

扉を後ろ手に閉め、大きな背中が消えていく。

「逃げ出さないでずっとここにいてくれたっていいじゃないか」

ぼくはそう思った。

仲間たちは、陽だまりに椅子を寄せ

ひそひそと会話を交わし

笑いながら算数の問題を解いている。

ぼくが近づくとふと風が止む。

少年たちの頬を、吹きぬけていた歌うような風が…。

みんな、ぼくを仲間外しにしているわけではないのに

小さな淀みが生まれる。

彼らにあって、ぼくにはないもの!

ぼくのなかにある、彼らを戸惑わせるもの、

それがなんであるのか!

ぼくは、12歳の日々

そのことをずっと考えながら生きてきた。