丘
この畑のある丘にのぼると
風が谷を駆けていくのが見える
幼い日、母の背におぶわれて来た
祖母と手をつなぎ登った日もある
栗の木が三本植わっていて
丘の畑は山を少し切り開いたところにあった
風の渡る田の向こうに
白い一本の道があって
ボンネットつきのバスが五回通った
風渡る田は、
冬、土色に沈み
水ぬるむ頃、緑の苗色に染まった
夏は銀の花をつけ秋には金色の穂をたれた
風はその度に、強くやさしく波を走らせた
この丘にのぼると
遥か向こうに山々と空が見える
夕日の沈む空は
一番星を残して紫色に変わっていった
いつか、あの山を越える日がくると
この村を出て行く日がくると
ぼくは、一度だって思わなかった
しかし風は、いくどもぼくの心をふるわせ
笑いながら夕日の向こうにおいでよと誘いかけた
一番星を誰が最初に見つけるかを兄弟で競いながら
僕らは煙の立つ家に帰っていった