ちびっこカウボーイ

「誰か、先生と踊ってくれる子いますか」

と、学校公開の音楽の授業で言った。

「ハーイ!」

 K君、U君、M君、I君たちが、元気に手をあげた。まずはK君を名指しする。教室の机はコの字型。みんなが歌う真ん中で私と踊る。勇気がうれしい。

 拍手の中、K君登場。私は、隠していた紙袋をゴソゴソやって、中から帽子を取り出した。みんな歓声をあげて笑った。だってその帽子はカウボーイハット…。私が家から持ってきた。K君の頭にちょこんと乗せると、似合う、似合う。首にハンカチを巻いてあげた。本当にちびっこカウボーイになった。

 それから、みんなの歌に合わせて適当に踊った。やんや、やんやの喝采だ。続いて、四人で輪になって踊る。これも楽しい。

             ※

 数日して再び音楽の授業で踊った。今度は、当日早退していたU君が「ハイ!」と手を挙げる。U君と踊る。

 ところが、このU君が凄い。私の出る幕などない。見事にリズムにのって激しく踊る。もう見とれてしまった。のりに乗っているのだ。子どもたちは一斉に「アンコール」の大合唱。

 楽しく踊って、もうみんな笑い転げた。「女の子で踊ってくれる子いないかなあ」と言ったら、女の子たちは半分踊りたそうだけど遠慮した。「残念だなあ」と言って、リコーダーの『雪のおどり』に入ろうとしたら、U君が何やらモソモソやっている。

 よく見るとセロテープを口に貼り付けていた。「何してるんだい」と私。「あっ」と思った。だってセロテープに赤い唇がペンで書いてある。U君の魂胆が分かった。いたずらで女の子に変身しているのだ。私は、いたずらを叱ろうと思ったけれど、突然、このいたずらに乗っかってやろうと思った。

「U君おいで、先生と踊ろう!」

 みんな、笑い転げた。『ちびっこカウボーイ』スタート。二人の演技が始まった。

 「♪ちびっこ カウボーイが やってきた /さぼてんの花咲く 西部から/ バンジョーをかきならし 歌いくる/ みんなで輪になって 聞いたんだ…/ ラーラララーララ ラーララ…/ 勇ましい ぼくはカウボーイ」

 最後の場面で、私は、片膝ついて両手をVの字に開いた。U君を迎えるように! するとU君が、ピョーンと私にジャンプして飛びついてきた。抱っこちゃんのように…。凄い、U君のパフォーマンス! 私の予想を遥かに超えて表現を楽しんでくれる。

 子どもたちが言った。「ねえ、先生。これさあ、校長先生にも見せたいね」だって。