釧路の動物園に行きたい
道徳の授業を終えると、子どもたちが教卓を取り囲んだ。
黒板に貼った『タイガとココア』の写真を奪い合うようにして見ている。2頭の障がいを持って生まれたアムールトラの兄弟(オスとメス)の写真。何枚も拡大コピーしたものだ。
「先生、この写真ちょうだい」「私は、この写真がほしい」「わたしにもちょうだい」
S子は胸に写真を抱きしめている。
今日の授業は、24日の学校公開の道徳の授業の後半編だ。校長と仲間の教師が見ている。子どもたちはコの字型の机から、黒板の前の床に座って学習。私は、椅子に座って語りかける。時々、板書で立つけれど…。
「生後30日目のうれしいことって、何?」と私。
「もしかして、足が治ったんじゃないか」「2頭が歩けたんじゃないか」…。こんな会話をしながら物語を展開していく。
「そうなんだ。2頭は歩けたんだよ。園長さんも動物園のスタッフも感動したんだって。その歩き方は、わかりますか」
すると、子どもたちの何人かが前で実演してくれた。歩き、倒れ、歩き、転び、…。「そうなんだ。タイガは3本の足で転んでは立ち上がって歩いた。ココアを4本の足を使いながら、倒れては起き上がって歩いたんだって」
それから、公開をするかどうかをめぐって意見を交し合う園長さんや飼育員、獣医さんたちの苦悩を考えあう。…以下略。
「2009年、8月25日にね、タイガが突然、喉をつまらせて亡くなります…」子どもたちは息を飲む。それから一頭になったココアの写真を見せて授業を終えた。
子どもたちが「わぁっ」と集まってきたのはこのときだった。
※
「先生ね、5月か8月に釧路に行くんだ。ココアに会いに行こうと思ってるの」「えっ、いいなあ」
「ぼくたちも連れってよ!」「2組みんなで貸切で行きたいよう」
Y子が廊下まで追いかけてきて言った。
「私のお父さんね、北海道で生まれたの。今度行くとき絶対、動物園に連れてってもらうんだ」
『命の輝き…タイガとココアの物語』はこうして終わった。