Sケンとラインカー

  火曜日。いい天気。公開も終わった休み明けで、頭が回転しないでぼんやりしている。

 「先生、今日はSケンできる?」「できるよ」

「じゃあ、先生、先に行ってるからね。早く来てよ」

  20分休み、T子さんやJ君がそう言って外へ飛び出していった。ちょっと教員室に寄って校庭に出ると、2組の子たちがウサギ小屋の近くに集まっている。もう、チーム分けをしているのだ。

  驚くことがあった。ラインカーが、倉庫から引っ張り出されていて、近くに置いてある。ラインカーを、子どもたちだけでは使わないように言ってある。

 「T子さんでしょう。ラインカーを持ってきたのは…」

 「ふふふ、そうだよ。だって先生が取りにいかなくていいよう

にね、私が持ってきてあげたの!」

              ※

  2チームに分かれて試合開始。ぎゃあぎゃあ、わいわい、それ

は騒々しい。でも、これでいいのだ。私は、審判。

 突然、A組のK君と2組のS君がけんかを始めた。めずらしい。「俺のこと強くつねっただろう」「そっちが蹴ってきたからじゃ

ないか」「俺は蹴ってないね」…。だんだんエスカレートして、つ

かみあいのけんかになりかかった。

「はい、2人退場。仲直りしたら入れてあげる」と私。

「だって、こいつがわざとやったんだから」「お前がやってきた

だろう」

 口を尖らせて収拾がつかない。こういう遊びの中の、どちら悪

いとも言えないようなトラブルのときは、私は2人を退場させて

ほっておく。

 二人は、近くの犬走りに座ってもしばらくけんかしていた。さ

てどうしたものかと思っていると、5・6分してS君がK君の前

に立ち、ぽつりとつぶやいた。

「ごめんな」するとK君がコクンとうなずいて「俺もごめん」と

言った。まるで内田りんたろうの絵本、オオカミ君とキツネ君

の物語みたいだ。一人で笑ってしまった。

 もう、二人は何事もなかったみたいに元気に遊んでいる。仲間

と遊ぶなかで育ちあう力だ。

           ※

 このとき、ふと思った。これまで教えてきた子たちの中で、S

ケンに加わるのを避ける子は、けんかのできない子だ。ぶつかり

あって自己主張ができず「先生、○○君がぼくのこと悪口言った」

と大人や教師の助けを求めてくる子に多い。子どもが交わりを豊

かにして、他者と共に生きる力を獲得するためには、ぶつかりあ

うことも恐れないような自己主張の力が背後になくてはならない。

そんな気がした。Sケンなどの遊びの中で、激しくやりあう場面

があると、子どものマイナスの力のように見えるが、実はこうし

た力が、他者と共感し共に生きる力の土台となっていることを忘

れてはならない。