産業カウンセラーの 高野 晴 です。

 

このブログでは,時々,人間の思考や判断のクセを取り上げていますが,これを「認知バイアス」と言います。

 

この認知バイアスには,実にたくさんの種類があります。その中で,今回取り上げるのは,「認知的不協和理論」というものです。

 

ここで問題です。

 

 ある面倒くさい仕事を,同じ部署で同じ仕事をしているAさんとBさんにそれぞれ担当させた後,Aさんは昇給させ,Bさんは昇給させませんでした。

    AさんとBさんでは,どちらがその面倒くさい仕事を面白いと感じたでしょうか。

 



答えは,Bさんになります。



 面倒くさい仕事を付加されて,昇給もなしなのに,なぜ?と思うのですが,

 

「給料が同じなのに面倒な仕事までさせられた!」

 

「面倒で損な仕事なのに,頑張れるはずはない!」

 

「そうか,これは私に必要で面白い仕事なのだ!」

 

と,人は,思考と行動の結果との間に矛盾(不協和)がある場合,無意識のうちにつじつま合わせをするため,認知を変更したり,勝手な意味づけをしてしまうという思考のクセがあり,これを「認知的不協和理論」(米国心理学者のレオン・フェスティンガー提唱)と呼んでいます。

 

これは,こんな実験でも実証されています。

 

 AとBのグループに面倒な同じ仕事をさせて,Aのグループには報酬として20ドルを,Bのグループには1ドルを,それぞれ渡して,その後,その仕事の評価をしてもらったところ,AグループよりもBグループの方が,その仕事を「面白い」と回答したというものです。

 


認知的不協和理論の例としては,ほかにも,

 


「特別に値段が高かったから効果も高いはずだ!」

 

「苦労して探し回って見つけたから良い商品だ!」

 

「厳しい試験で合格したから私には良い大学だ!」

 

「競争率の高い会社に入社したから良い企業だ!」

 

「時間と費用を掛けて購入したから良い自宅だ!」

 

「交際期間が長かったのだから良い夫(妻)だ!」

 

となります。心当たりがありませんか?😄

 

「認知的不協和理論」は,努力,苦労,出捐等に対して無意識で正当化するものですから,日常生活でもよく見られると思います。


 

また,この「認知的不協和理論」を逆手にとれば,


 

「高額の値段を提示する→良い商品と思いこませる」

 

「面倒な仕事を指示する→良い経験と思い込ませる」

 

「厳しい競争を競わせる→高い愛着を思い込ませる」

 

という効果があります。


 

 例えば,相手に対して,自分への愛情を深めてもらおうと思えば,自分が面倒なことを引き受けるよりも(それはそれで好意を持ってもらえると思いますが),相手に引き受けてもらう方が良いということになります。

 

つまり,

 

「相手に対し時間,手間,費用を費やしている」

 

「相手が嫌いなら,こんなことをするはずない」

 

「そうか,実は私は相手のことが好きなんだ!」

 

となります。

 

 ですから,相手に好きになってもらいたかったら,お世話は,できるだけ相手にもしてもらいましょう(笑)。


 

 とは言え,もちろん,いつまでも面倒な仕事を部下に指示し続け,何の対価も支払わなければ,いつかは,

 

「面倒な仕事ばかりを引き受けさせられている」

 

「仕事内容と対価報酬とのバランスが悪すぎる」

 

「そうか,これは上司から私へのパワハラか!」

 

と思われてしまうでしょう。

 

くれぐれも「策士,策に溺れる」ことのないように。

 

 

 さて,ここまで読んでいただいた皆さんの中に,

 

「こんなに時間を掛けて1000字以上読んだ」

 

「きっと,これは仕事に役立つ有用な情報だ!」

 

と思われたとしたら,それがまさに「認知的不協和理論」が働いた


ということになりますね。

 

最後までお読みいただき,ありがとうございます。