今季、唯一負け越している東北楽天との22回戦(9月6日・ヤフードーム)。ホークスは天敵の“マー君”こと田中将大を攻略し、鮮やかな逆転勝利を収めた。逆転に成功した7回に見事な決勝打を放ったのは6年目の井手正太郎だった。
 3点を追う7回、東北楽天のミスに漬け込んで田中をマウンドから引きずり下ろし、なおも1死一、二塁のチャンスで井手は代打として起用された。その時点で東北楽天は左投手の2番手・有銘兼久から右投手の永井怜にスイッチ。井手が自軍のベンチを見ると王貞治監督がゆっくりと出てきた。
「交代か」
しかし、王監督は審判のところには向かわず井手に近づいた。
「オマエは代えないからな。思い切っていけよ」
 尻をポンと叩かれた井手はその期待に何としても応えなければ、とより一層気合いを入れた。永井の暴投で二、三塁とさらにチャンスが広がり「外野フライでもいい」と気楽に勝負ができたことも幸いした。6球目のフォークボールをジャストミートすると、打球はセンターの頭を大きく越えていった。
 今季は41試合に出場し打率2割5分6厘、1本塁打、9打点の成績(9月6日現在)を残している。出場試合数はすでに自己記録を塗り替えた。大村直之の離脱で8月上旬にからスタメンに定着したことが大きい。

亡き親友のために活躍誓う

 いま、井手は目の色を変えて戦っている。もともとは南国・宮崎生まれの気質でノンビリ屋だが、今は違う。井手には活躍しなければならない理由がある。7月のオールスター期間中だった。日南学園高時代のチームメートで、井手とともに甲子園に出場した同級生が、不慮の事故で亡くなったのだ。
「アイツとはいつも学校に一緒に通っていました」
 試合のない時期だったこともあり、片道4時間以上の道のりを車で飛ばして通夜に出席した。
「人生で初めてそのような席に出ました。もう、何と言っていいのか。たまりませんでした」
 変わり果てた親友の前で「オマエのために、ヤフードームでホームランを打つ」と約束した。泣きじゃくる彼の両親からは「よう来てくれたな」と迎えられ、そして「正太郎、絶対に活躍してな」と逆に励まされて福岡に帰った。
 井手の快進撃はそれから始まっている。
「昨オフに同級生のテラ(横浜・寺原隼人)が横浜にトレードになったり、メカ(元福岡ソフトバンク・北野良栄)が戦力外になったりした。危機感? それは、まあ。だけど、彼らは生きている。また会える。亡くなった友人のために、絶対に頑張りたい」
 才能溢れる6年目がようやく本気になった。自分のため、そして親友のために井手は今日も歯を食いしばる。
伸び悩んでいた正太郎
後半戦から頑張っていますからね
友の死を乗り越えて・・・友に誓った活躍・・・
これからもやってくれると思います